長生きしないと ・2・
甥の一歩後ろを付いていきながら、私はちらちらと、周りを見る。
コーヒーカップ、メリーゴーランド、ジェットコースター、、、。
当たり前の誰もがアミューズメントパークと言われれば、思い浮かべるモノばかり(工夫とかなんにもしてないわ)。
、、、言い換えちゃえば、もの凄く個性のないアミューズメントパーク。特色というものが何にも感じられない、多分、人にアミューズメントパークを描いてみてと言われれば、此処とだいたい似たような感じになると思う。
そんな平凡な場所。
さんさんと降り注ぐ太陽の下、誰もいない色鮮やかな空っぽの此処は、本当にアミューズメントパークかのかなと、疑うほど奇妙で、、、。
ふと、ホビーショップんに飾られているようなモニュメントのなかに私達が迷い込んだみたい、と、ちょっぴりメルヘンなことを考えていた、、、。
「おねーちゃん。何に浸ってるの?」
「え!?いやいや!!何にもないよ!何にも考えてなかったよ!!」
突然振り向いた甥に、なんか、、、悟られた。
ぶんぶんと、首を振るけど、甥はどうなんだかと大きな目を半眼にした(、、、おねーちゃんは心が痛いです、、、)。
「に…しても!このアミューズメントパーク道はまだまだ綺麗ね!!」
私は取り合えず痛む心を引きずって、適当な話題を振った、、、。
「うん、そーだね。…ホント…頻繁に肝試しに人が来るっていっても、綺麗すぎるぐらいだね…。」
と、私の適当な話題に甥はとても冷静にかえした。
一瞬、ぎゅぅっときた何かがあったけど、言われてみるとそうだ、、、。
普通、使われなくなった道ってたちまち、ゴミや落ち葉が溜まるし、植物のたくましさ、すぐにアスファルトを破って草が生えてくる(近所にあった雑貨屋さんが、潰れたときそんな感じだったし、、、)。
でも、今でも使われてますって言わんばかりに、道は綺麗だ。
肝試しに来る人数ってたかが知れてるし、、、。
、、、もしかしてホントに、、、。
、、、、、。
、、、いやいや!!オバケはありえないって!!オバケって実体ないから!!
自分で出しかけた結論を、自分で絶対的に否定する。
「おねーちゃん?何百面相してるの?」
「ううん!何でもないわ!そう!何でもないのよ!!」
甥は何故は私に理解出来ないモノを見るような、無機質な目を向けた。
、、、うう、、、そんな目で見ないでぇ、、、。
少し肩を落として歩いていると、奇妙な一角に出た。
多分、このアミューズメントパークのグッズショップが建ち並ぶとかそういう一角だったんだと思う。色鮮やかなファンシーなお店が立ち並んでいた。
でも、有様が酷かった。
赤いレンガが敷き詰められた道に、大量に色んなモノが転がっていたのだ。
割られた硝子、壊れた建物の瓦礫、それに、お店の商品だっただろう、ストラップ、ぬいぐるみ、オモチャ等々(どうやら置き去りにされていたらしい)。
まるで台風が通ったみたい。
「酷いね…。」
思わず出た言葉に甥も頷いてくれた。
よく潰れた建物とかに忍び込んでモノを盗みに来る人がいる。多分そう人達が荒らしたのかしら?
肝試しに来たヤンキーさんとかもあり得る。
けど、、、店のよっては半壊しそうなトコや、石畳が割れているトコもあるから、酷い荒し方をしたもんね、、、。
相当荒い事しなくちゃ、人の力で此処まで壊すのは大変よ(何かもの凄い力か何かで潰されただろう、原形が既に解らなくなった物体としか言いようのない物も散乱している)。
「おねーちゃん、ボクらも、やってみる?誰にも怒られ無そうだね。」
「じょーだんでも、そんなこと言っちゃ駄目なんだよ。」
ぺしっと、甥の頭を軽くはたいた(身内を非行の道には走らせないんだから)。
ちぇっと、唇を軽く結ぶトコは、やっぱり子供だなぁと思った。
「ホラースポットていうより、クラッシャースポットだよ。」
「そうねー。」
私は、軽く肩をすくめた。
と、その時。
甥が、突然ばっと後ろを向いた。
「どうしたの?」
「おねーちゃん…なんか…感じなかった…?」
「え?何が?」
「…気の…せい…かな…?」
私は甥にならって後ろを向いたけど、、、別に何も居なかった、、、。
けど、甥は納得いかない顔で眉を顰めた。
なんか居たような気がしたんだけどなぁ、、、と、私には聞こえてないように呟いたんだろうけど、、、ばっちり聞こえちゃった、、、。
や、、、やめてよぉ、、、な、、、なんか、、、怖いじゃなぃ、、、。
「…お…オバケが出るって言うのが頭にある状態だから、何かと…勘違い…したんじゃない…?」
「だったら、いいんだけど…。オバケとやらとは、なんか違う気がしたんだけど?」
私はもう一度恐る恐る振り向くけど、私達が通ってきた道。
別に何もない、唯、役目が無くなってぼろぼろになっていくのを待つだけの遊具達が並んでいるだけだった。
甥との会話が漸くとぎれて、、、今更気が付いたけど、びっくりするほど、、、此処は静かだ。
、、、こんな静けさ、、、私は生まれてから覚えている限り両手の指で足りるほどしか知らない、、、。
猫も居なければ、鳥も居ない、、、虫すら居ない、、、此処、、、一応、、、緑に囲まれてるのよね、、、。
私は、ぞぞわっと一気に毛穴が開くような感覚に襲われた。
鈍く、おまけに現代っ子で都会っ子な私は、ある意味、虫がいないとか生物が居ないとかが普通なことだと思ってた。
でも、此処は森の中だ。
私の友達には、都会のど真ん中生まれで、街育ちで、街の首都圏から一度も出たことがないという、ある意味都会の純粋培養の子がいる。土の地面なんてテレビか、公園でしか見たことがない。そんなことを言う程の、、、(学校は?ときくと、その子の学校のグラウンドはよく陸上競技場とかにある、ゴムみたいなあの地面らしい、、、)。
流石に土の地面は見ているけど、正直私もそんなにその子と変わらない。
森の中には生き物ががいる。
それ私は本当に情報としては頭にあったけど、知識として使えなかった、、、。
いくら真昼でさんさんと日が照っているとこでも、オバケが出るなんて曰く付きの場所なのだ。
今更、なんかものすっごく怖くなってきて、きゅっと甥の手を握った。
でも、同じ、現代っ子で都会っ子でも、鈍くはない甥は、私の感情を悟ったのか、優しく握り返してくれた。
「おねーちゃん。今日はもうオバケどころじゃないね、日を改めて出直そうか?」
また来るという図太いとこには納得できないトコがあったけど、取り合えずここから出ていきたかったから、こくこくと、頷いた。
「ま、来週当たり、そういう番組が来て、此処を撮るっていうらしいから、其れでも見ればいいかな?」
「…最初から…そうして…よ…」
「えー。ボクは自分の目で見たかったんだよー。」
、、、好奇心はね、、、猫も、、、殺すんだよ、、、。
色んな意味でぐったりとした私は、元来た道を引き返そうと、甥の手を掴んだまま踵を返した。
そして、やや早足で入り口に向かおうとしたが。甥の歩幅と会わず、速いと言われたため、変わらない速度のまま入り口に向かう事になった。
と、ふと、考えてみれば、いい歳した大人が、こんな年下の男の子と手を繋いでもらっているというのは、端から見たらどう見えるんでしょうか、、、。
でも、今は小さな甥に感謝したい。このぐらいの歳の男の子って過剰なぐらい異性とくっつくのは嫌がるか、くっつき出すかぐらいだというのに、、、ああ、、、我が甥は本当に出来た子だよ。
おねーちゃんと、にいさんが何時も自慢げにしているわけが毎度毎度ながら解るわ、、、。
ふと、甥の顔をのぞき込むと、甥は眉間に不快な様子で皺が寄っていた。
「あ…!ごめん!嫌だった?」
「ううん…。違うよ、おねーちゃん。」
甥は、きょろきょろと、当たりを真剣に見渡し始めた。
「なんか…嫌な感じする。気のせいじゃない…。」
「え?」
「…ん…なんて言うんだろう?見られてる…みたいな感じ…。カメラとか、そんなのに…。でも、じろじろ見られている感じもあって…。」
甥にならって、私も意識を集中して辺りを見渡してみるけど、、、残念。私はやっぱり鈍かった、、、。
「他の道、捜して見る?」
「おねーちゃん。道解るの?」
「…このまま…戻るしかないね…。」
ごめんなさい。ごめんなない、、、。
解りません、、、。
かくんと、頭を垂れたまま、さっき通ったテーマパークのメインスポットに戻ってきた。
やっぱり、ありきたりな感じだなぁと言う印象が湧いてきた。
けど、なんだろう、、、?
違和感というのだろうか、、、?
なんか、ここに入ったとき、変な感じがした。さっきは感じなかったけど、、、。
あ、、、もしかして、、、此が、、、この子が感じた、、、嫌な感じ、、、?
オバケ、、、でも、、、オバケじゃないって、、、?
辺りをゆっくりと見回してみる。
甥の言葉正しく、私もその嫌な感じを感じ取った。だから、相当にその嫌なものに近いんだろうけど、、、。
やっぱり辺りは、色とりどりな遊具、、、。
はたと、私は気付く。
無意識に、白い塊系を捜そうとしていた頭に、オバケは、車だったと言う基本を忘れていたことを思い出した、、、。
車、車、、、と、小さく呟きながら、新たな視点で、五感をとぎすませ、、、探し始める、、、。
、、、ぉおん、、、、。
「「!!」」
小さいけど、、、今なんか聞こえた!!
「おねーちゃん!」
「私も聞こえた!!」
私は、一瞬遅れて記憶と今が、、、、さっき、ここに入ろうとしたときのモーター音と重なった。
気のせいじゃなかったんだ!!
私は、パニクりだしてあわあわとしだした。
「おねーちゃん…。落ち着いてオバケなんかじゃないよ…。」
「本当!嘘じゃないよね!嘘だったらおねーちゃん泣くよ!!」
「え…?おねーちゃん、もしかしてオバケ、マジで怖いの?」
うんうんと、首を上下に激しく振る。
この子は、私のオバケに対するそれは、多分ホームテッドハウスで、きゃーきゃー騒ぐぐらいのだと思ってたんだ、、、。
どーして?と言わんばかりに、首を傾げた。
この子の心臓は鋼か!!
私は、甥の手を離し、自分の強度豆腐クラスの心臓を押さえ、ゆっくり深呼吸を繰り返し落ち着きを取り戻そうと、したその時、甥のケータイから軽やかな着メロが聞こえた。
「のぎゃぁ!!」
「…あ。ママからだ。」
ぴっと、ケータイを取り出すと、メールを確認した。
びっくりさせないでよー、、、。
本日何度目かと、負担をかけている心臓が、とても酷になってきた、、、。
もーやーだーと、思わず涙目になっていると、甥が不満げにぱたんとケータイを閉じた。
「…なんか用事できたから、早く帰ってきなさいってさ。」
むすっと、甥が顔を顰めた。
私はおねーちゃんに感謝した、なんか、張りつめた雰囲気が一気に溶けたような感じだ。
「そう…。」
「ま、今から帰ろうとしてたから良いか。此処が終わったら、本当におねーちゃんに街を詳しく案内してあげようかと思ったんだけどな。」
「それは、明日にでもまたお願いするわね。」
漸く心臓が落ち着けると心拍数がどんどん元に戻っていく。
はぁ、、、二度とこんな事しないんだから、、、。
ふっと、嫌な感じも、張りつめた空気が溶けたみたいに薄まったのも感じた。
「じゃ、急いで帰ろうか?」
「うん。あ!ちょっと待って!おねーちゃんのケータイ貸して!!」
「え?どーして?」
甥の、突然のお願いに、素直に私は自分のケータイを取り出した。
「設定まだだから、私のは通じないよ?」
「でも、写メとかの機能は使えるでしょ?」
まあ、基本機能は使えるけど、あ、写メが撮りたいのか、ここに来た記念にってトコかな?(私も結構意味なく写メ撮ること在るけど)。
甥は私のケータイを、手慣れたように弄くると(この子は簡単な日本語ぐらいなら解る)、写メをピロリンと数回撮った。
「此でOK…と。」
「何でわざわざ私ので撮るの?」
「だって、日本製のほうが綺麗に撮れるんじゃないかなって?」
にこっと、笑う甥。
居る居る、こーいうの。日本ってこういう面が、微妙に間違った面で過剰評価されてるのよねー、、、こっちの映画ってそう場面多いもん(後、忍者とか侍とか、、、)。
「撮れたかな?なんか写ってたりして。」
「もぉーやめてよー。」
私が態と困った顔をして、ピッピと、写メを確認する甥と一緒にケータイの画面をのぞき込む。
「「え?」」
私達は。声を上げた。
純粋に驚きの声。
写真が、、、一枚も撮れてない。
いや、もっと正確に言うと、全部が酷い画像で、ほとんど色の塊にしか見えない。
「えー!おねーちゃんどういう事!?」
「え!うそうそ!!壊れちゃったの!!ヤダー!!メモリ別に移動してないのにー!!」
最悪!!
ケータイ無かったら死んじゃう!!なんて程じゃないけど、家族のとか友達のとか、アドも番号も全部はいったままだから!!
お願いだから唯の写メの不都合であってぇええ!!
私は甥の手からケータイを、ひったくるようにとると、急いで確認する。
ピピピっと、自己最高速度で指を動かし、ケータイの中身を確認する。
と、すると、メモリーは全部、、、無事だった。
「はぁ〜よかったぁ…。」
「写メ機能壊れちゃったの?」
「おかしいな?昨日撮ったときちゃんと写ったのに…。」
ピロリンと、もう一度試しに何度か、周りを撮ってみた。
「写メ機能だけ壊れてるっていうのも…困るわね…。」
と、今度は、、、写っていた。
ちょっと、ピントが甘いけど、、、(手ぶれ防止機能付いてるんだけど、、、)。
「あれ〜?」
「どっかにぶつけたの?」
「叩けば治るかしら?」
「何時の機械?」
こまったなぁと、ぴっと、何枚目かの写真を見たとき、あれっと、気付く。
「ねえ、此処変な風にぼけてない?」
「え?どこ?」
「ほら此処…、なんか、丸っぽく…。」
「あ、ホントだ。何だろう?」
全体的にぼけているけど、それだけ綺麗に形を取ったように変な具合にぼけている。
ん?っと、私達はその取った場所を、じっと見つめてみる(写真と違って、肉眼だからある意味こっちの方が信用できるわ)。
よく見ると、其処の一部が歪んでいる。
眼を懲らさなかったら解らないぐらい、本当にうっすらと、、、だけど、、、。
何だろう、、、あれ、そうそう。
プレ、、何とかっていう映画のモンスターが、姿を隠している時に其処だけ、ぼやってなるときみたいに、、、。
ぉおおん、、、。
「「あ!動いた!!」」
逃げるようにその、歪みが動いた。
それに、モーター音!!
「おねーちゃん!もう一回其処撮って!!」
「うん!」
オバケというより、超常現象チックな感じだったから私は怖くなかった(変かも知れないけど、私は宇宙人とかそう言うのは怖くないの)。
その歪んだところを撮ろうと、ケータイを向ける、、、けど、その薄い歪みは今度は動かない。
今がチャンスと、意気込んで狙いを定めると、、、ケータイが鳴った。
あ、メール、、、と。
思わず、いつもの条件反射で、画面を見てしまう。
誰よ、こんな時にと、メルボを開こうとしたとき、甥が青い顔をして服の袖を引っ張った。
「おねーちゃん…それ…繋がらないんじゃなかった?」
「え?」
今度は私が青くなる番だった。
私は、急いで繋がらないはずのケータイに送られたメールを見る。
未登録で、無題のメールにはシンプルに文が一つ。
Return.Never come to
here.
「…帰れ…二度とここに来るな…。」
甥が無意識にそれを呼んだとき、僅かな歪みが消え、、、其処に、車が現れた。
白い車、、、オバケの車!!!
私達が顔を見合わせるより速く、車がモーター音ではなく、カチャガチャっと、もの凄い金属音をたてて、あり得ないことが事がおこった。
白い装甲が中に入ったり他の部位に移動し、内部のごちゃごちゃ機械が奇妙に変形し、そして、もう既に車の形ではなくなった金属塊が、足だと思われる二本の金属塊がだんっと、力強く地面を踏みしめた。
そして、最後の仕上げとばかりに、金属塊にしか見えなかった歪な表面が白い装甲と、滑らかな金属になった。
其処にはもう、車ではなく、機械の巨人が居た。
「「……!!」」
実にじじくさい仕草で、こきっと、首を回すような仕草をして驚愕とした私達を見下ろし、異様に長い指だと思われる、見ようによっては槍にも見える程鋭いそれを、かちかちと聴かせるように大きく二、三度ならすと、、、私達に突きつける。
ぎらりと、さんさんと照りつける太陽の下それは、綺麗に光った。
『…こりねー…やつらだゼ…。』
機械の巨人は、呟いた、、、酷く疲れているようにも、聞こえた、、、。