長生きしないと ・1
・
「おねーちゃん、はやく、はやく。」
「はいはい。」
小さな甥の手にひかれ、私は素直に従った。
郊外というか、、、町はずれの場所(緑が眼に眩しい)。
中心街まで行くまで三十分ぐらいかかるぐらい。
十歳以上年上の姉が米人と結婚して、こっちに住み始めて、私は一回も来たことがなかった(年に何回かは姉夫婦が帰ってきたけど)。
両親が英語恐怖症で、姉夫婦が住んでいる米国にくるのを極力避けたかったから、私はそのとばっちり(国際結婚には一応の理解を示したのに、一番最後まで姉が米国に住むって事だけは猛反対したのが良い証拠)。
私は、、、姉のおかげでもあってか、書くのはスペルミスが多いけど、読み書き会話には一応困らないぐらいだから、英語恐怖症ではない(英語以外の後の教科?きかないで誇れるモノは特にないもの、、、)。
一応、で、そんな複雑な理由があった私が何故、その姉夫婦の愛息子(つまり甥に当たる)に手を引かれているかというと、理由は二つ、、、。
一番重要なことから、つい最近、姉夫婦の住んでいた、ある街でもの凄い事件が起こったのだ。
よく解らないけど(ニュースで小難しく言うんだもの)、半年ぐらい前、姉夫婦が住んでいたこの街で、、、どこかの会社の機械が暴走して、本当に凄いことになって街がひっちゃかめっちゃかになってしまって、、、(被害とか眼が飛び出るぐらいの)。
その後色々ごたごたして、姉夫婦は引っ越した。
漸く落ち着いたから、おいでってことになって、、、。流石に両親も娘夫婦が心配になったらしく、いい歳で漸く初渡米を果たしたのだ。
そして第二に、、、。
「新しく引っ越したとこ、ボクが案内してあげるよ。」
「はーいはい、宜しくお願いしまーす。」
「もー。ちゃんと見てないと困るのはおねーちゃんだよ?
此処に住んだとき迷子になっても知らないよ?」
「申し訳御座いません。」
私は、もうすぐ、こっちに住むことになったのだ。
住むと言ってもちょっとした留学みたいなモノ。ちょっとの間お世話になるだけ。
で、其れを初めて今日聴いた甥が、自分が案内してくれるって言ってくれたものだから素直に従うことにしたのだ。
「おねーちゃん。謝るときはちゃんと相手の目を見てはっきり言うんだよ。そんな曖昧な謝り方じゃあ、帰って相手を不快にさせるんだよ?おねーちゃん其れじゃあ駄目だよ。いい歳なんだから。」
「…非常に申し訳御座いません…。」
、、、こういう風に、口だけは私のレベルの遙か上を行く従弟に、、、(一応実年齢は上よ、、、)。
この子って妙に賢くて、、、よく言い負かされたりする。
ふぅっと、私は小さな手にひかれながら、緑の豊かな周りを見渡す。
あーこっちの家って、みんな大きいのよねぇ、、、しかも庭とかフツーにあるし、、、。
カーデニングとか、凝ってる人はとことん凝っているし。
おねーちゃん達の前の処って、結構町中にあったから、あんまりこういうの見る事無かったなぁ、、、(そのおかげでおねーちゃんは、その暴走していたロボットにもう少し押しつぶされそうになったらしい、、、)。
そんな悠長なことを思いながら、ため息をついた。
「おねーちゃん。どうしたの?」
「ん?ちょっと咽が渇いただけよ。」
一生懸命案内してくれている甥にまさか別のこと考えててね、なんて言ったら子供にたいしてだろうが失礼だと思って、とっさに別の台詞に置き換えた。
でも、半分ぐらいは本当。湿気がないだけ日本よりマシだけど、汗はかくし、咽は渇く(自動販売機とか日本みたいにぽんぽん無いのよね、こっちって、、、)。
「じゃあ、飲み物でも買おうか?近くにお店あるよ。」
「う〜ん…。我慢するわ。うっかりしてお金、持ってきてないのよ。」
ぽんぽんと、ポケットを叩くとケータイしか入っていなかった(さっき着替えたときに、置きっぱなしにしちゃったみたい)。
「やだなぁ、おねーちゃん。ボクが奢ってあげるって!」
「い!いやいや!いいって!!」
子供に奢って貰うなんて、一応大人としてはずかしーよ!!(未成年だけど、米国では州によっては、十八でも成人ってあったような、、、)
「おねーちゃん、気にしなくて良いよ。ボク、ジュースを余計に買うお金ぐらいあるから。それに、年上だろうと何だろうと女性は丁重に扱わなきゃ。ボクのメンツが丸つぶれ。ま、ボクをたてると思って大人しく奢られてよ。」
「…にいさんに似てきたねぇ…。」
驚くほどクサイ台詞を言っても、子供のくせに全然嫌味にならない笑顔を浮かべた甥に、思ったことを素直にいった(ハーフの子ってどうして綺麗な子が多いんだろう?)。
あー、将来が末恐ろしいわ、、、。
にいさんが、あの硬派だったおねーちゃんを口説き落としたんだと言うことを思い出す。
、、、同時に、、、プレイボーイだったと今でもモてるにいさんが、爽やか笑顔を浮かべて力説していることも思い出す。
、、、DNAってやっぱり正しいのね、、、。
おねーちゃん譲りで運動神経もなかなかだしね(劣性遺伝子一つも受け継いでないじゃない、、、此って不公平じゃないの?)。
「車?」
「うん。」
ぐーと、なんやかんやで奢って貰ったジュースをどこぞの木陰で飲みつつ、世間話に入り、まぁ、典型的な面白うわさ話はないかという話を持ちかけると甥は、にこっと、待ってましたと言わんばかりに、薄茶の大きな目を細めた。
「あのねー、結構米国全体って良いぐらいで、変な噂ってヤツが広がってるんだよ。」
「んー?何々?面白そうねー?やっぱりUMA関係なの?最近隕石が落ちてくる回数が多いって聞いたことあるけど?」
「もっと馬鹿げているんだよ。」
こくんと、甥はそこでジュースを一口。
そして、ぐっと顔を近づけてきて大げさに真面目な顔をする(多分作り顔)。
「車のオバケが出るんだってさ。」
えっと、私は合成着色料たっぷりな鮮やかなジュースを落としかけた。
「…えっと…車の…オバケ?…車に、乗ってるオバケじゃなくて?車が、オバケなの?」
「うん、車がオバケの、車のオバケ。」
、、、言葉遊びしてるんじゃないけど、ややこしいなぁ、、、。
結構車関連のオバケ話は日本でも定番だけど、、、。
車自身がオバケなんて聴いたことがない。車がスクラップになって化けて出るなら今頃、天国ではオバケ車の大渋滞が出来るわ。
「確かに…変わった話ね?」
「でしょ?ボクだって車に乗っているオバケの話ならあの手この手はきいたもん。」
私も同意見だ。
「んーと…此処最近から広がりだしたんだけどね。」
「へー。普通そんな巫山戯きった噂ってすぐに立ち消えになるのにね…。」
世間の人々というのは、面白話が大好物なのは万国共通。
けど、馬鹿馬鹿すぎたり、大袈裟すぎたり、あり得なすぎたりすると、あっと言う間に消えてしまうものなのに、、、(イロモノ芸人さんが良い証拠よ)。
、、、消えないってことは、それなりの、何かがなきゃね、、、。
「ま、都市伝説になりそうな勢いだよ。」
「面白そうね、見られるものなら、見てみたいわねー。」
冗談半分にいってみるけど、、、私、、、正直オバケとか、、、怖いのよね、、、小さな甥の前でそんな無様なことは言えないわ(小さい頃にお化け屋敷に行ったのがトラウマなの、、、)。
すると甥は、その台詞を持ってましたと言わんばかりに、天使のような顔で、、、悪魔の微笑みを浮かべた。
私はその悪魔の微笑みに、仮面のような硬い微笑みで返す。
取っても嫌な予感がするのは私の気のせいよ、、、ね、、、?
こんな小さい子が、こんな笑顔を浮かべられるのが不思議、、、。
「おねーちゃん。」
「なぁに?」
ああ、、、悪魔の微笑みが怖い、、、。
私はふと、年上の姉が幼い私に見せた笑顔と被る。本能に近いほど刻み込まれた、この笑顔には逆らうなとう信号が脳を支配する(、、、おねーちゃんが、、、おねーちゃんがぁあぁぁああ、、、)。
サクランボのような淡い色の唇が、私を恐怖という其処にたたき落とす言葉を紡いだ。
「じゃあ、そのオバケを…見に行こうよ。」
私は恐怖が命令するまま逃げようとしたらしい、がしっと、子供とは思えないほど強い力で袖を掴まれた。
ひぃっと、喉の奥が引きつった音を鳴らす。
「見たいんでしょ?」
「…っ!……っつ〜!!!いい!いいよ!」
ぶんぶんと、首を振る(今日せっかくセットしたのに、、、ってそんなこと構ってられないわ)。
「だ、だ、だ!!第一そのオバケを捜すったってあては無いでしょ?!た、た、た!!大変よ!!」
私の必至の否定に甥は、ふふっと、笑う。
「やだなぁ、おねーちゃん。ボクがそんな非効率だと解ってこんな事提案するわけないでしょ。」
この効率とかを気にするトコは、にいさんに似ている。
おねーちゃんによく似た笑顔と綺麗に融合しているから、本当にDNAって怖いと思う。
「…と言いますと?…」
私の、震える手を、小さな両手でやんわりと挟み込む。
さっきまで私を引いていた手と同じなのにどうしてこんなに怖いんだろう。
「この街ねぇ…その噂の有名スポットの一つがあるんだよ。」
お願い、、、手を、、、離して、、、。
ああ、、、そっか、、、街の案内って建前で、、、最初からそうしようとしたのね、、、。
私は、時代劇の、お縄に懸けられた罪人を思いだした。
私は、何だか逆らえないまま、甥と並んで歩く。
私の予想通り、甥は最初からこの気で私を引っ張ってきたらしい。
後、そのオバケが出るという場所は、子供一人では入れない場所にあるそうだ。
でも、好奇心いっぱいの甥は、賢かった。
おねーちゃんやにいさんは、あれで結構心配性で、可愛い息子が怪我をしたら大慌てする(過保護って言うのかな?親馬鹿って言うのかな?)。
危ないトコに行こうとしたら、、、全力で止めるに決まってる、、、。
此処で、甥は其処にばれるの覚悟で乗り込もうとするような真似はしなかった。
確かに噂を確かめたい気持ちはあったけど、見つかったら、間違いなく外出禁止に。けど、好奇心と同時に自由も愛する甥は、其処まで懸けるほどのレベルには行かなかったらしい。
でも、確かめたい好奇心は収まらず、どうしようかと、甥が色々と策を練っていた処に、私は飛んで火にいる夏の虫だったというわけ。
はぁと、可愛らしい笑顔のまま易しく説明してくれる甥に、そーなのね、と、力無く返すことしか出来ない私自身が憎かった。
「ところで、この街ではどんな風にその噂が流れているの?」
「うん、まあ、噂によって少し内容は違うけど、中身はみんな一緒なんだ。」
ふっと、甥は改まったように口元を引き締めた(、、、顔が良いと何でも様になるのね、、、私がやると、、、無理なカッコ付けにしか見えないわ)。
「白のセダンだったかな…、その車が、無人で走ってて襲ってきたとか、あり得ない動きをして光速で走ってたとか…、まあ、此は嘘だと思うけど、車が変形したとか…。」
セダンって、、、どんな車だっけ?
なんか聞いたことあるけど、、、。
でも、、、車に疎い私には、車の名前を言われたって全然解らないけど、、、。
「なんか、悪質な暴走族みたい。」
「集団ではないけどね。」
「被害とかでてるの?」
「ん〜、其れがちょっと曖昧なんだよねぇ…見たって言う人が全部、酔っぱらいとか、夜遊びしてた連中とか、子供だとか、発言に、、、ちょとなぁって。いう人たちらしいんだよね。」
「証拠とかは?」
「デジカメとか持っていく人なら山ほど居るけど、オバケを取ったって言う人の其れ、全部消えてるんだよ、綺麗に。此もかなり盛り上がっている理由の一つ。」
でも、警察とかは、信頼性が欠けるっていまいち動かないんだよねー、と付け加えるようにもう一言。
「…だ…だったら、噂を知っている人がいったほら話じゃないの?ほ、ほらさ!あるじゃない集団でそう言うことって!!」
私としてはそうであって欲しい。
「でもさ、其れだったらみんな話に絶対にばらつきがあるけど、みんながみんな同じようなことを言うし。数もかなりの相当数。あながち、全くうそなんて言えないんだ。」
「…へー…そうなの…。」
そうして欲しかった気持ちが、一気に潰される。
「昼間から出るの?」
「うん、時間は全部バラバラなんだ。」
オバケなら夜限定でしょう?
「で、何処に出るの?」
「ん?お決まりの廃墟。」
、、、嫌なお決まり、、、廃墟だったら、、、危ないけど、だったら一人でいけるじゃない、、、一人で行けば、、、おねーちゃん、にいさんにばれないと思うけど?
ぶーと、むくれた私の意味が分かったのか、甥はアーモンド型の眼をまるで蛇のように細めた。
「行けないなんて言ってないよ、入れないって言ったんだよ。」
「入れない?」
妙な言い方、、、。
「つい最近潰れたばっかりのアミューズメントパークなんだけどね。入り口は完全に閉じられてるし。古い訳じゃないから。フェンスは破れてないし、高さも相当。」
こんな中規模都市に作ったって潰れるのはむりないわね、、、。
、、、現実逃避思考、、、。
「で、ボク一人じゃあ入れないの。誰かに助けて貰わないと。」
「友達だっていいんじゃないかな?」
甥は、困ったように首を傾げる。
「そうも考えたんだけど…、何もなかったらで、もし、なんかあったりしたらみんな相当慌てると思うんだ。そしたら入ったってばれるでしょ?」
貴方は隠せるんですね、、、。
「さっきオバケを見たって言う子供ってボクの友達も入ってるんだ。その子達学校に行く以外は外出禁止をくらってるよ。馬鹿だよねぇ、黙ってればいいのに、パニクって言いふらしたもんだから。おかげで上手く隠してた子も道連れだよ。」
なるほどね、道連れを喰らう確率もあるから同級生は誘いたくない訳ね。
、、、そんなに安全性を重視するなら諦めるって選択はなかったのかしら、、、。
「で、私に?」
「うん。おねーちゃんなら協力してくれるって思ったから!」
「どうして?」
「おねーちゃん、ボクと一緒で好奇心強いでしょう?おねーちゃんなら見たいって言うかなって思って。ちょっと駄目で元々って言うのはあったけどね。」
、、、嘘付くんじゃなかった。
正直に私はオバケが苦手って言えば良かった、、、。
でも今更、撤回できるほど、私は恥ずかしさを我慢出来るほど、出来た人間じゃない。
「で、でも私が、ママに言うかも知れないのよ?其れでも良いの?」
「あー。それはないない。」
甥は、ひらひらと手を振ってみせる。
「だって、そんなこと、ママにいえばおねーちゃん、ママに相当しめられるよ。多分ボクよりずっと重く。」
、、、おねーちゃんが、私にあの笑顔を見せながら、よくも息子をそんな危ないトコに連れて行ったわね?っと、私をじりじり攻められるシーンが実に鮮明に連想出来た。
いくら私が違うと言っても、息子LOVEのおねーちゃんは息子を保護するはず、、、。
、、、にいさんは、、、駄目だ、、、おねーちゃんに敷かれてるから、、、。
「いいじゃない!ボクもおねーちゃんも好奇心を満たす、そして黙ってる。別に、何の振りもないでしょうお互い。」
「…そ…そーだね…。」
私の恐怖心は、オバケ<おねーちゃんになった、、、。
私は、必至に祈ったとにかく祈った。
神様お願いします!オバケが出ませんように!迷える魂を天国に連れて行ってください!!
怖いんです!お願いします!!小さな甥の前で情けないおねーちゃんをさらしたくないんです!!
ほとんど、身勝手な祈りだと解ってるだけど怖いものは怖いし、、、今は神様しか頼る方が居ないんですもの、、、。
ふるふると、大人げなく震えている私に、甥は酷く不思議そうに首を、、、、傾げていた。
態とじゃないのね、、、。そっかこの子にとってオバケなんてその程度だから私の気持ちなんてこれっぽっちも分かんないんだろうなぁ、、、。
で、甥に導かれるまま、細い路地を抜けたり、此処通って良いの!?っていうところを抜けて、その廃墟アミューズメントパークに向かった。
もっと時間がかかるかと思ったけど、以外にも近かった。
家が、郊外なせいもあるあるけど、なんて不運。
近くなかったら甥だって行かなかっただろう、、、。
郊外に引っ越してきたおねーちゃんを恨むべきか(前は街のど真ん中だったじゃない!!)、こんな処に普通潰れると解るのに建てた建設会社を恨むべきか(オバケが住み着いちゃったじゃない!!)、、、もう、、、心の中は大絶叫だ。
泥と葉っぱとゴミに彩られ、、、途中で、ケータイで(甥のよ、私のは設定がまだだから)姉達に遅くなるかも知れないと言う連絡を入れ、、、通常の何十倍も重くなった心と体を引きずっていった。
で、あっと言う間に目的地。
でも、私は安心した。
「なーんだ、思ったより面白く無さそう。」
「そーねー。よかった…ううん!残念、残念。」
潰れてばっかり、というせいもあって。廃墟特有の誰もいない、寂しい感じはしたけど。おどろおどろしい、ぼろぼろ感はないし、森の一部を潰したようだったけど日差しがさんさんと降り注いで居て暗い様子はない。
お休みといっても良いかも知れない。
「ん〜…、ボク、昼間も出るなんていうぐらいだから、もっと陰湿な感じかと思ったのに。」
「来たこと無かったの?」
「まあね、行く前に、ボクが引越しって来たってころに。ちょうど潰れたらしいから。」
残念そうに眉を顰める甥。でも私はとっても嬉しい予想外よ!
「ま、来ちゃったんだし一応は入ってみようか?」
「やっぱり入るの?」
「来ちゃったんだし、このまま引き返すの勿体ないじゃん。」
私は、この調子だったら甥はすぐに飽きると思った。
ま、中に入って丸一週ぐらいしたら満足するでしょ。
「じゃ。おねーちゃんまずボクを肩車してよ。」
「うん。」
女の私でも小さな男の子ぐらいだったら肩車出来る(上手くはないけど)。
フェンスは、ぎりぎり子供が上れないぐらいだった、私はぎりぎり、、、入れるかな。
甥をフェンスの向こうに送り出す(ナイス着地)、そして私は少し助走を付けて、フェンスに飛びつき、よじよじと、登る(綺麗に上れる分けないじゃない、、、、)。
へったくそな着地で漸くフェンスを越える。
ずでんっ。
「いたた…、腰うったぁ…。」
足首を捻らなかっただけマシかな?(スニーカーで良かった、、、ミュール履いてたら絶対にぐきっていったわ)
「おねーちゃん。」
「何?」
「スカート捲れてる。」
「嘘!!」
ばっと、ミニスカを押さえる私を、甥が、呆れるように笑う。
ううぅう、、、ミニスカなんてはいてくるんじゃなかったな、、、スパッツか何か中にはいてくれば良かった。
甥しか此処にいなくて良かった、、、。
お尻をはたきながら、立ち上がり、取り合えず、寂しい廃墟を見渡す。
広い、、、遊具ちょっと少ないんじゃない?、、、
こういうトコって、ちょっとごちゃごちゃして居るぐらい色んな遊具があるモノなのに、此処は、広い。
、、、正直に言えば、、、しょぼい、、、。
潰れて当たり前かもしれない、、、。
普通に車が走れそう。
「オバケが出るって、此処のしょぼさがあってこそだね。此処が普通の遊具が沢山あったトコだったら、噂流れないよ。」
甥もそう思ったらしい。
「でも、最近は人はいっぱい来てるんだね。」
「え?」
「だって、道見てよ。普通、人が居なくなったら落ち葉とかゴミとか道に広がってるもんじゃん。人が頻繁に来ているおかげもあって道にゴミは溜まってないよ。」
「そうね。」
「こんな風に人来れば潰れなかったんじゃない?皮肉だよね、潰れてから来るなんてさ。」
シビアな子よね、、、ほんと。
「でも。こんないい天気で、オバケが出るとは思えないわね。」
「そーだよねー。もっと天気が悪い日にでも来れば良かったね。」
、、、今日がいい天気で本当に良かったです。
ぉおおぉん、、、。
「ぇ?」
「どうしたの?」
突然声を上げた甥が、きょとんと私を見上げた。
「ううん、気のせいよ、私の気のせい…。」
あたしはその答えに小さく手を振った。
気のせいに決まってるわ。
モーター音なんて、、、。
、、、オバケなんて、、、まさか、、、ね、、、。