痛みと信頼。・1・ 



 オプティマスは、小さな窓越しに宙を見ていた。

 黒い黒いそこに、きらきらと輝く星々。

 使い古された表現。でも。それ以外思いつかない。
 自分は、、、詩的な表現が苦手なほうなのだから、、、致し方ないか、、、。


 後、もう夜になっていたのかと、眼を細め、彼は、半ば自嘲気味に笑う。

 薄ぼんやりとした思考で考えることというのは、大半がどうしてこんなにくだらないのだろうか?と。


 「っ…!ぁあ…!ぐぁ…っ…ふぅ…ぁあぁ…っ!!!。」
 「すいません、司令官。」


 再び始まった激痛が、がちゃぐちゃと、ラチェットが、自分の胴体をリペアしているという、現実に戻される。

 ずるりと、ラチェットがの、傷つきオイルにまみれた内臓器官を、引きずり出すところをばっちり見てしまって、一瞬、あんなモノが普段見えないだけでどう、自分の中に収まっているのかと、オプティマスは素直に驚いた。


 「…っ…!…ぅ…ぁあ…ぃ…っ…!!」
 「…たく、こんなところで…!!」


 必至にオプティマスの腹を修復している、ラチェットが酷く腹ただしい表情を見せていた。

 其れも当然だ、こんな治療器具も何もない、ただの廃墟で出来ることなど知れている。
 いくら彼が幾らかの医療器具が内蔵が合ったとしても、いかに彼が優秀な軍医であっても、今この状況では、本当に付け焼き刃にしかならない。

 一刻も早く、アーク号に戻らなくては最悪の事態も、、、ありえる。


 「司令官、ちょっと痛いですからね。」
 「…ん…あっ…ぅ…ふ…ぁ、ああああっ?!」


 ぐちゃんっと無理矢理、内臓器官の応急処置として弄くり回し、接続する。
 麻酔もなく、荒技として感覚器官を一時的に遮断しようとするが、どこかの器官の回路でもいかれているのか、効果はどうやらない。痛みを和らげる手段もなく、激痛に支配されるがまま。

 痛みからくる反射的な声を消そう発声器官を、最後の意地で、硬い材質の床を掻き、首を傾けると、アイカメラに映った鉄片を噛みしめ、押さえつける。

 口内に自分の意志の有無関係なく、生臭いオイルが溢れ、もう吐きたくなる。苦くて溜まらない味が広がって不快だ。
 痛みで体は強張るくせに、肝心な箇所のコントロールが出来ないもどかしさが、オプティマスを苛む。

 今この状況で、敵に見つかりでもしたら、今度こそ、、、終わる、、、。


 ラチェットとオプティマスは。どちらもこの不安を抱いていた。


 「…ら…ラチェット…。」
 「はい。なんでしょうか、司令官。」


 ふぅ、ふぅと、オーバーヒート気味の過熱した身体が放熱のため、熱い空気を吐き出しながら、オプティマスは、浮ついた声で呼ぶ。

 ラチェットは、かちゃがちゃと、損傷を治療している箇所から意識を話さず、声だけ返す。


 「…ふっ…ふぅ…皆は…はぁ…ぅ…大丈夫…くっ…ぁ…なんだろうか…。」
 「解りません。彼らのチャンネルにアクセスしようにも、妨害されて手皆目見当が付きません。」


 軍医でもあり、オプティマスの部下でもある彼は、淡々と語る。
 今のこの状況で、何も言っても慰めにもならないことを彼は解っているから。


 「…ふっ…そう…か…。」


 こぷりっと、粘質的なオイルが口角から同時に垂れる。

 その声が、とても頼りなく聞こえた。
 何時も絶対的なカリスマ性をもちその声に誰もが惹かれる、その声が、だ、、、。


 掠れているから、声が小さいから、、、そんな些細な理由抜きで、、、。


 「オプティマス…。」


 ラチェットは、今の彼を司令官と呼ぶのは少々憚られるような気がした。

 弱気な彼。 
 本当に今自分の目の前にいる男が、司令官なんだろうか。ラチェットはそんなあり得ない錯覚にすらとらわれそうになった。


 「…ぁ…ぐぅ…くぅ…ぁ…ぁああっつ!!」
 「貴方らしくない…。」


 ひしゃげオイルまみれで、ぐちゃぐちゃになったパイプを、内蔵の医療器具で、形を戻す。
 火花がばちりと散る、オプティマスは足ががくがくと痙攣して、地面を蹴っていた。

 床に伝ったオイルが、痙攣する足蹴られ無造作にはね、ラチェットにかかる。
 かなりの量が床に広がっているのが否応なく解る。

 このままオイルが体外に流失したら、スパークの鼓動が止まる。

 腹の底がずんと、重くなるのを彼は感じた。


 ずぅどぉおおぉんっつ。
 がだぁんっ。がたぁあっつ。


 「…っ!!」


 衝撃が何の前触れもなく轟く。
 ばらばらと、砂埃や破片が振ってくる。
 びしっと、真横の壁に大きな亀裂が走った。


 オプ、、、ス、、イム、、、!!、何処、、、るっ、、、!!!



 壁越しに、轟音と合間から、馬鹿でかい怒声が響く。

 ちっと、ラチェットは舌を打つ。


 「下衆が…。」


 ディセプティコンの、連中の一人だろう。
 バリケードか、ブラックアウトあたり、、、。


 オプティマスの腹をえぐったメガトロンの部下共。


 そう思うと、ラチェットは、ブレインサーキットが過熱し、いつもの冷静な思考は何処へやら、、、まともな思考が出来なくなりそうになりそうだ。


 腹を弄くっているというのに、声も上げなくなってきたほど、意識が混濁してきたオプティマスが目の前にいるのだから、その怒りも一入だ。


 「オプティマス、オプティマス。聞こえるか?」
 「…ああ…聞こえ…てる…よ…ラ…チェット…。」


 明後日の方向を向いて、消えるような声で返す。

 一瞬でも気を抜いたら、完全にオプティマスは堕ちる。
 多分、今堕ちてしまったら、意識に復活はもう絶望的。

 体に障るのは重々承知だが、此は会話を続けた方がよいと、ラチェットは判断した。


 「痛いか?」
 「…はは…何だ…か…痛く…なくなって…きた…よ…やばい…な…。」


 ぶしゅっと、引きちぎれたチューブから、オイルが吹き出した。
 なのに、オプティマスの苦痛は見られない。どうやら本当のようだ。

 痛みがなくなったのは、プラスでもあり、マイナスでもある。明後日の方向を向いたまましゃべっているのもふくめて、今の彼は自分との会話が唯一の意識のつなぎらしい。


 「何でも良い、しゃべれ。オプティマス。」
 「…努力…す…る…よ…。」


 醜くえぐれた胴体が、僅かに振動する。


 、、、笑ったのか?


 一瞬、何故かラチェットは気味の悪いモノを感じた。


 「…ラ…チェット…そういう
…君は…大…丈夫…な…の…か…?」
 「貴方に比べれば、可愛いモノです。」
 「…ふふ…相…変わらず…痛い…ところ…を…つく…な…。」


 強いて言うなら、右肩のパーツが歪み、背中の装甲が派手に剥げたことだろうが、此は別に重大な問題ではない。
 さっきもこの問答をしたような気がするが、、、どうやら今のオプティマスは、意味のないうわごとのような会話しか出来ないようだ。


 「…ジャ…ズと…バン…ブルビー…は…逃げ…き…れ…た…だろ…うか…。」
 「ええ、最後に彼らと連絡を取ったとき、アーク号の近くにまで行っていました。」
 「…よかった…。」


 そこで、個人チャンネルにアクセス出来なくなったが、あくまで、フレンジー当たりからと思われる、ディセプティコンからの妨害が入ったからであって、敵襲を受けて、、、という、理由ではない。

 彼らの優秀さから考えて、彼処までアーク号に近づいて置いて、後れを取るような馬鹿ではないだろう。


 「アイ…アンハ
…イドは…無事…だろうか…。」
 「…っ…!!…アイアンハイド…については…解りません…」


 ラチェットは、その一瞬絶え間なく動いていた手を止めた。
 アイアンハイドについては、、、本当に解らないのだ、、、。


 ラチェットは、此処に潜り込むまでの、戦慄したモノを思い出した。















 その時、アーク号は、とある星に降り立っていた。
 其処はほんの百年程前まで、ある種の有機生命体達がそれなりの文明を持ち暮らしていたらしいが、ある時星規模の、バイオハザードが起きたらしく、この星の僅かな生き残りの住人は他の星へと移住し、今、この星は当時のまま、ほおって置かれている無人の星だ。


 この星の都心だった場所に彼らは居た、、、が、、、。

 そこは、いっそのこと嗅覚センサーをOFFにしようかと、本気で迷うほど、なんとも言えない青臭い匂いが立ち込めていた場所だった。

 どうやら、匂いの元は何かの、畑か植物園らしかった場所で(ドームらしきモノが残っている)、今こそ野生化しているものの、栽培されていたなにかだ。
 恐らく、元は、観賞用目的か、販売用目的かで、爆発的な繁殖力を持つように品種改良されたそれが、管理者が居なくなった今、緑の塊にしか見えないほど茂っていた。


 「センサーがいかれそうだぜ。」
 「司令官〜。これー、何の匂いですかぁ〜?」
 「んー?何だろうか?私には解らないな…。」
 「司令官でも解らないんですか…。」
 「すまない、バンブルビー…。」
 「いやいや、司令官…。いちいち謝んなくても良いと思いますがね…。」


 ジャズとバンブルビーに挟まれて(バンブルビーに至っては腕を掴んでいる)、バンブルビーに、質問を受けるが。司令官ともいえども。如何せん、解らない物は解らない(金属生命体である彼らは、有機生命体について少々疎い面が目立つ)。
 正直、オプティマスもこの匂いにはたまらないモノを感じていた(彼らは知らないが。有機生命体の一部の女性体が趣向品として好む香草やら、有機生命体のエネルギー源である食料の香付けのハーブやら。これらが混ざり合った匂いが原因、少量だったらまだしも大量のそれはかなりつらい)。


 「えっと…、ラチェットか、アイアンハイドなら解るんじゃないかな?」
 「はは、司令官!ラチェットならともかく、アイアンハイドにんなもんが解るはずないですって!」
 「え?そうか?アイアンハイドは仕事で飛び回っていたから、ああみえて博識な男だぞ?

 「マジですか?あんな武器オタクが…。」


 そこで、ジャズのよく回っていた口が止まった。
 彼の後ろの首根っこに、じゃきっと、硬い硬い銃身が押しつけられたのだ。

 ぐりぐりと、銃身が痛いぐらい押しつけられる(がりがりと音もしていることから、装甲は派手に剥げている可能性がある)。 


 「あ…ぁ…ぁ…あははは…。」
 「幸運を試すか…ジャズ?」
 「辞めておけ、アイアンハイド。弾の無駄だ。」


 乾いた笑いを見せるジャズの後ろから、此処の調査をしていた、銃身を突きつけた犯人アイアンハイドと、ラチェットがちょうど戻ってきた。
 数歩遅れてきたラチェットは、やれやれと言った様子で、その物騒な銃身をやんわりと掴み降ろさせ、取り合えずジャズの頭が吹っ飛ぶ可能性を阻止した(ジャズが急いで、オプティマスの後ろに隠れたことは言うまでもないだろう)。


 「ああ、ラチェット、アイアンハイド、ご苦労様。」
 「ただいま戻りました。」
 「ここらに、危険なイキモノ共は居ませんでしたぜ。」


 オプティマスは、少々乱暴な言葉を使うアイアンハイドを軽くいさめると、ラチェットから、此処の情報をすぐさま送ってもらった。


 ここに来た目的、、、。


 ここにディセプティコンのメネシス号が、この星に降り立ったのではないかという情報を得たからだ。

 先の戦闘で、アーク号の激戦の末、メネシス号はそれなりの深手を負っていたことから、修復の必要があるはずと、そう睨んで、彼らは情報を集め、そして、見慣れない船がこのあたりの銀河にいたという情報に従って、ディセプティコンを捜索していた。

 あやしいと睨んだ星を絞り込むだけ絞り込んだが、なにせ、銀河は広い、候補は少なくない。
 取り合えず、確率の高い、好条件の星を捜索して、後は虱潰し。


 「ディセプティコンたちが、此処に潜伏している痕跡はまだ見つからない…か…。」
 「ええ。」
 

 既に何番目かと降り立った星で、住民は居なくなり、場所の不便性もあって誰も立ち寄ることもなくなった星に、あまりにも不釣り合いな船が向かっていたという情報を、得たのだ。

 当時のままそのまま捨て置かれた星。年月もそう経過しているわけでもなく、恐らく誰もいない、知られる可能性もかなり低く、材料も機材もまだ生きているものも多く星だろう、と、この星もなかなかの好条件がそろっているのではないだろうかと、その情報に少し懸けていたのだが、、、。


 「また、ガセネタを掴まされたのか…。」
 「此で、何回目だろう…。」
 「やめとけ、数えるだけ無駄っつーの。」
 「今回は、十三回目だな。」
 「「「数えてたのか!?」」」


 色々と、落胆している仲間を見て、オプティマスは優しく笑う。


 「そんなことを気にしていたら、きりがないぞ、オートボット諸君。後、この星はまだ広い。まだ油断は出来ないぞ、引き続き捜索を続けよう。」
 「「「「はい、司令官。」」」」







 



 「ジャズー…。此処本当に…どうなっているんだよー。」
 「さぁな…オレ達とはかなり思考の違う奴らが、作った街としか言いようがねーぜ。」


 取り合えず、一行は今度は全員で街を捜索することにし、、、ジャズとバンブルビーの二人は、街の元住宅地と思われる場所を捜索していた。

 困ったことに、そこは、彼らからすれば相当理解に苦しむ作りをしているうえに、植物たちが我が物顔で支配しているという悪条件が重なり、、、わざわざスキャンをかけながらでなくては、どう進んで良いのやら見当も付かない処だった。


 「ここら辺一体の建物は、植物のクロスをかけられたみたいだ。」
 「ああ。ここはあの変な植物詰め込みのドームが近いから尚更なんだろうな。」


 目の前の妙な形の草の塊を引っ掻き表面を落とすと、青白い無機質が見えた。

 クロスとは下手な表現だが。
 この一帯の建物で、もとの面積が露出している方が少ないほどだ。 


 「街の、司令官達が探しに行った方はまだ大丈夫みたいだったけど…。」
 「あっちは、管理機能が生きているみたいだったぜ?この植物共にギリギリそっちは侵略されてねーみたいだ。」
 「あっちの方はこの都市の…この星の首都機能があった場所らしいから、かな?」
 「だろーなぁ。お偉いさんっていうのは何処の星でも考えることは同じだな。」


 ごっと、不意にジャズは何かを蹴り飛ばし、うわっと、思わず足元を見る。
 蹴飛ばしたモノは、其れも例に違わず緑の塊に見えたが、どうやら、この星の主な通行手段だった乗り物だったらしい(乗り物の大きさからしてこの星の先人達は、彼らの半分ぐらいの、大きさの生物だったらしい)。


 「たく、何処までが植物か、何処までが障害物なんだか…。」
 「油断して、足下までちゃんとスキャンしてないからだよ。」
 「うるせーなー。一面緑なのが悪いんだ、少しでも色が見えてればオレだって避けたさ。」


 バンブルビーに、言われてぶすっと顔を顰め、顔を後ろに向けた。

 すると、新雪のように、緑の地面に二人の足跡のみが、綺麗に残っていた。


 「…処女雪って処か。」
 「緑の雪なんて聴いたことないけどな、オイラ。」
 「バーカ。例えだよ、た・と・え。」


 がんと、肘でバンブルビーの腹を小突いた。
 痛いじゃないかと、噛みつかれたが、けたけたと笑いをかえす。


 「さーて、と…此処は問題ねーな。速く司令官達のトコ、行こうぜ。」
 「駄目だよ、もう少し真面目にやろうよ。」
 「たーく、気付かねーのか。」
 「え…。」


 ジャズは、ぐっと、見せつけるように緑の地面を踏みつける。
 くっきりと、ジャズの足跡が残った。


 「彼奴らだって、馬鹿じゃない。例えこの街に身を隠していたとしても…こんな見つかりやすいトコに身を隠しはしないさ。」










 きぃぃいいいぃいいいぃっ。


 「ぅぉおおおおっ!?」
 「大丈夫ですか司令官!」
 「食らえ!雑魚が!!」


 がごぉぉおおぉおおぉおんっつ。


 無人の街の一角に爆音が轟いた。


 しゅぅう〜と、何処か小馬鹿にしたような軽い音と共に発生する薄汚れた煙の中には、僅かに鉄片が残るあまりだった。


 「私は大丈夫だ…。唯、驚いただけだよ…。」
 「…この星の、こういった技術関連については少し不足していますからね…。」


 住人は散り散りとなり、寿命により殆どが今では死に絶えた。
 この星に関して、ろくな情報が残ってないのも当然なことだろう。


 「…守るヤツにしては、脆いな。こんなのだったら…在っても無くても変わらない…。」


 じゃこんと、実に物騒な硬い音を立てて、アイアンハイドは武器を仕舞った。

 アイアンハイドの攻撃を受けたら並大抵のモノは跡形もなく吹き飛ぶので、彼の「脆い」という観念はかなり広い定義を持って、彼の「脆い」は、少し信用出来ないのをよく知っている、オプティマスとラチェットの二人は思わず苦笑いを浮かべあった。


 「ドローンによく似ていたもの
だから、つい…後、スポルノポックかと思ってね?」
 「この星には金属生命体は居ませんから、スポルノポックはともかく、ドローンについての心配はいりませんよ。」
 「居たとしても…こんな見晴らしだけはいい場所で、俺が撃ち損じるもんか。」


 アイアンハイドは、仕舞っていた武器を展開させ、振り返りもせず、後ろ向きに撃った。

 先程と同じように、オプティマス曰くドローン似の、この都市を守るガードロボットは吹き飛んだ。


 「流石…。」
 「お見事…。」
 「両閣下、お褒めにあずかり光栄です。」


 大げさな仕草でアイアンハイドは、胸に手を当て、頭を下げる。


 「それにしても、此処は、植物の浸食がねぇな。他は荒れきっているというのにな…。」
 「此処がこの星の首都だったらしいからな…。」


 流れで二人が話を振ろうと、オプティマスの横顔を見ると、彼の眼が曇っていた。


 治める国を失った長は、この誰もいない、空っぽの国を見て何を思ったのだろうか。

 この国は、一部の身勝手な者達のエゴによって滅ぼされた。
 彼らの国は、欺瞞の民の強欲によって滅ぼされた。

 過程は違っても結果は同じ。
 オプティマスは、此処の出来事と、彼らの国の出来事と割り切って考えることが出来ないのだろう。

 彼の目に焼き付いている、欺瞞の王である反逆者が、、、消えることはない。

 彼の気の遠くなる長い長い命が尽きるまで。


 寿命の短い生き物なら、そんな彼らのことを、未来永劫と言うかもしれない。


 「…オプティマス?」
 「…ぇ?…あ、ああ!…な、な、なんだ?!」


 オプティマスは、びっくりしたように、面白いぐらい、びくんと、体を反らせ、弾かれたように二人の方を向いた。眼が泳いでいて、心此処に非ずの心境だったのが丸分かりだ。


 「す、すまない…。」
 「構いませんよ、司令官。」
 「でもま、珍しいものが見られたな。」


 ぐっと、更に肩を落とすオプティマスをいつもの調子で笑う。
 すると、オプティマス自身も困ったような笑顔を浮かべ、僅かに残っていた思い悲しみの残滓が消えた。


 ラチェットと、アイアンハイドが見たいのはこっちの彼だ。


 「さて…。何処かで、此処のコンピューターにアクセスしようか。此処が生きているてことは、メインコンピューターも生きてるさ。」

 「だな。さっきの五月蝿い屑共も、さっさと機能停止させましょうや。雑魚相手に弾が勿体なくて泣けてきますんでね。」
 「ディセプティコンが居たとしたら何らかの形跡があるかも知れません。」


 そして、辺りを見回して端子があるそうなところを探し当て、其処からアクセスを試みた、、、が。


 「…此は困ったな…。」


 どうやら、此処の住人は此処を去るときに、肝心なデータをほとんど消していったようだった。
 しかも、急いでいたのか、消すことに重点を置いたのか、、、理由は定かではないが、、、随分とアバウトな方法だったらしい、残しておくと自分たちが後々不利益を被りそうなそれだけでなく、別に問題のないこの星の一般的な情報まで、、、。


 絶えてしまった種族の情報、、、新たな情報を期待していたのだが、欲しかった
情報はあまり得られなかった。


 だが、一番彼らを困らせたのが、ガードロボットを含めた都市機能を維持しているのは、独立したメインコンピューターらしい。この端末からではアクセス出来ず、しかも、、、そのメインコンピューターが何処にあるのか、、、不明だった。

 三人が、失望に軽く頭を押さえていると、残る二人が、三人の元に現れた。


 「司令官。バンブルビー、ジャズ、二名ただいま帰還しました!」
 「無傷でぴんぴんですよ!」
 「ご苦労様。ありがとう、二人とも。」


 オプティマスはうつむき加減だった頭を上げ、二人に笑いかけた。
 にっと、それに笑い合う若者二人。


 「挨拶はもう良いだろう。報告は口で言うより、送ってくれそっちの方が速い。」


 とんとんとラチェットが此見ようがしに、こめかみを叩く。

 二人はジャックを引き出すと。三人に自分たちの見たモノを送った。
 彼らだからこそ出来る芸当だ。

 一気に、映像が、思考が、情報が、流れ込んでくる。

 生物なら一気に流れ込む情報を処理しきれず、意識を飛ばすどころか、気が狂うほどの衝撃だ。


 「…なるほど…、まともに潜伏出来そうな処はこの首都機能が生きてるこの辺り一帯か。」


 ずるっと、ジャックを引き抜き、軽く首を振った。


 「結構範囲は限られましたね。」
 「だが、油断は出来ないな。」


 オプティマスは、ジャックを引き抜きながら、ふと、小首を傾げた。


 「…ラチェット…。」
 「はい、司令官。」
 「この機能を生かしているエネルギーはどうやって生まれているんだ?」
 「データによると、この星は主に、この星にしかない特殊な鉱物を加工することによって、エネルギーを生みだすことと、もう一つ、地熱エネルギーで生みだしていたようです。」


 ラチェットが、今し方引き出した情報をそのまま語る。
 オプティマスは、それに反応するようにぐるりと首を回す。


 「場所は?」
 「この都市の周辺…かなり近いですね。全て百キロ程でしょうか?数は、、、全てが生きていれば四つ…いや、三つ?生きている施設は全て、太陽光、風力、波力…といった半永久的な他の自然エネルギーのようですね?」


 ラチェットの答えが少し曖昧になった。
 さっき探した情報では此が精一杯だったのだ。


 「たく、此だから。寿命の短いイキモノが滅びると面倒だ…。」


 二人の会話にアイアンハイドが半ばうんざりとした顔をしていた。


 「仕方ねーじゃん、有機生命体って、全体的に、んなに長生きする種族じゃないだろ。」
 「だよねー。」


 年若い二人でもそのぐらいは理解している。


 「オレ達よりずっと、弱いんだろ?だから、無我夢中に自分たちのことを守ろうとするんだろう?」
 「オイラたちが思っている以上に、用心深いトコがあるよね。」
 「そーそ。オレ達がちょっと、思いつかないようなことをしてたりさ。」


 オプティマスは、ふむと、二人の言葉に、ふむと考え込む。
 と、彼が俯いていたのはほんの十秒足らず。

 そして、彼は納得がいかないような顔をしていた。


 「生きている施設でこの街の電力を補えるモノなのか?」
 「はい?」
 「首都機能のみと言っても、この街の様子では、相当のエネルギーが必要だ。この星では地熱や鉱物資源が主な手段の筈、それにこの星は、特別光が強いわけではなく、風の強いわけでもない、ましてこの星はほとんどが陸だ。波力なんてもってのほかの筈…。何故、首都に近い場所で主力発電所が近くにない?」


 はたと、皆は顔を見合わせる。


 「もしかしたら、私達は、ジャズとバンブルビーが思ったように、何か見落としているかも知れない。」


 ジャズとバンブルビーが、ぱんっと軽くハイタッチをする。


 「唯でさえこの星は、今までの星と違って、詳細な情報は少ない…少し視点を変えて調べてみよう。もしかしたら、ディセプティコンは私達の知らない情報で潜んでいるかもしれないのだから…。」


 オプティマスは、苦々しく、頭を押さえた。

 そして彼は、強い光と放つ瞳を上げる。


 「少し、手荒な手段を使わざるおえなくなるかもしれない。」