思い立つ日が吉日 ・8・
ぼんやりと、そこまであたしは結構昔からごく最近の昔のことを回想した。
因みにあの人が死んだことを知ったのは、見たい番組が始まる前に時間つぶしがてら見ていたニュースだ。
自分の興味のないことは知ろうともしない質だったから、本当に偶然だったと思う。
軍のお偉いさんだったのだ。
案外、ニュースというのはスターや政治家の弔辞は小うるさいぐらい連呼するくせに、軍のお偉いさんとか芸術家の弔辞は一つのTV局が言えば上等なぐらいだ。
本当に素晴らしい偶然だ(日頃の行いがカミサマに愛でられる要因だな)。
正直、あたしはあの人の名前を知らなかったから(訊こうと思ったことがなかったおっさんで充分だったし)、ニュースがもし若い頃の写真を出さなかったらふーんで終わったニュースだっただろう。
普通、晩年の写真と一緒に出すもんだけどぱっと出された写真は若いものばかりだった。
、、、多分、軍は、あの人の異常な老化は隠しておきたい物だったんだと思う。
なんでかは、、、解らないが、、、。
ま、後は毒舌君任せで何処に葬られたのを訊いた(大々的には公開されてなかったけど)。
で、その墓場が此処。
さっきから墓を目で追っているせいか、目の残像が墓石型になってきた気がする。
にしても、人気が全くなくなった。
馬鹿に広い墓場にあたし一人と、此奴だけか?
「なあ。」
『…なんだ…。』
ふっと、PETから珍しく自発的に性格最低陰険性悪外道ナビが出てきた。小さなフォログラムがあたしの肩に止まる。あの時と比べてかなりナビという存在はこちらに干渉出来るよう成ったと思う。
「もうすぐか?」
『…没月日には近いな。』
へえと、声に促されて墓を真面目に見直せば、柵の側の墓のよう。
ちらほらと、ナビマークのようなエンブレムを彫っている墓もないことはない。
墓に個人の意向に添って、何らかの趣向を施すこともないことはないので、その一種だと思う。
「お前が珍しいな。」
『…俺もあの御仁の墓には興味がある。』
此奴が常人にも聞き取れる声量で会話することは、真夏に雪が振るぐらい珍しいことだ。
、、、違和感を感じる。
「声、気持ち悪い。」
『…そうか、ならこのまま暫く継続する。』
この野郎と、勿論通り抜けることが解っているのだが小さなフォログラムを、振り回しすぎてぼろぼろになった花で小突く。
唯、空を裂く感触と一緒。
別に触ったという感覚はないけど、触ったつもりだ。
ほんの一瞬此奴があたしの手がフォログラム状態とは言え、通り抜けた瞬間、不快感を隠せない顔をした。
どうやら感触はなくても、不快さは感じるらしい。
ザマミロ。
『女郎が…。』
「ほざいてろ、外道ナビ。」
くくくっと、口角を上げて小馬鹿にする笑顔を浮かべてやれば、無言で指を立てられた。
あー、死ねと言いたい訳か。
だが、やり方に面白さがないな、、、。
こんなやり取りをしていると自然に意識がこっちに偏る。
んっと、視界のあたしの斜め前当たりに何か映った。
誰か居たのか、、、。
墓の影と植木の手入れの甘さでよく見えなかった。多分あっちからでも見えづらいと思う。
でかいヤツだな、、、オトコか、、、。
んっ?と、頭が状況理解のため誰かが居るという、基本判別を終え次の段階に入る。
、、、そして、、、目を凝らした。
でかすぎる。
てか、、マント、、、。
えっと、アタシとナビは一瞬向き合う。
ばっと、真面目に見えれば、、、。
、、、確かに男には間違いない。
唯、もの凄く、あり得ない格好をしてる。
浅葱色のマント、全身肌の色が顔しか見えないほどかっちりと身体を覆った鎧、逆立った黒髪、尖ったヘッドギア、赤いフェイスガード。このご時世でそんな格好しているニンゲン居るわけない。
其奴はまだ比較的新しい墓の前で、何処かぼんやりとした様子で項垂れていた、、、。
「『っ!!』」
あたしらの、思わず上げることさえ出来ず詰まらせた音にばっと、、、彼は振り返る。
「ま、待て!!」
『おいっ!』
ばっと、あたしは花束を放り出し、駆け寄るが、正に一瞬の出来事。
それより速く彼は、マントを翻し、一瞬ぼやけるとう゛ぉんっと、細かな粒子となって、、、消えた。
あたしは、勢いのまま彼が立っていた場所まで転けるような体勢で近づいた。
で、本気で、はぁ?という感じで思わず力が抜けよくて入れされた芝生の地面に膝を突く。
芝生には、重い物がある程度の時間乗っていた証として、くっきりと芝生には足跡が残っていた。
「おい…今居たよな…あたしの…錯覚じゃないよな…。」
『…ああ…事実だ…居た…。』
見まごうことなくあの人のナビ、、、。
大量生産のノーマルナビじゃないんだ、あんなごっついナビと同じナビが存在する確率は、この際ないとさえ言い切れる。
、、、。
空を見る、相変わらず薄曇り。
周りを見る、相変わらず墓石。
あたしの前には、何にも落ちてない。
、、、つまり、、、ディメンショナルエリアなし、ディメンショナルコンバーターなし、、、、コピーロイドなし、、、。
あたしでも知っている、今現在、分類関係なしで、ナビをこっちの世界に干渉させる要素のあるもの。
、、、全て、当てはまらない。
「…どうなっているんだ…。」
『…解析不能…。』
いや、、、ナビが単独で、、、こっちの世界に来た、、、?
今、コピーロイドが主流に在りつつあるが、、、正直、、、金持ちや限られた連中ぐらいにしか出回ってないのが現実だ、、、。
まだ大量生産が出来る代物ではなく、何処の老舗メーカーのオーダーメイドだよ。と馬鹿にしたくなるぐらい、一体一体、その技術者どもが造っている状況。
手がかかれば金もかかる、呆れるほど高い代物と成るのは当然の流れだ。
馬鹿が、一番安い物でいいから買おうなんて気楽に思って、それのゼロの数を見て、これで一番安いかと巫山戯るなと怒鳴る場面は決して少なくない光景だ。
つまり、一般向けとは断言して言い、、、言い難い。
まだまだ、ナビが簡単にこっちにほいほいこれる状況では無いというわけだ。
あちら側と、こちら側の準備があって漸くこれるというプロセスの、現実側の要素が欠けている。
「おい、お前さ、聞いたことあるかこっちにナビが何の下拵えも無しでこれる方法?」
『…他種様々な工学を使用したとしても現時点のそれのレベルでは到底不可能だ。』
わお、此奴の珍しい長文きいちゃったよ。
あれだ、付き合いの長さという無駄な経験値で解ることは、此奴はそれなりに混乱すると、いつもの短文は何処にぶっ飛んだんだと、蹴り飛ばしたくなるぐらい、一般的な会話レベルの長文に変わる。
「どういう事だ、あー畜生…、本っ気で意味わからん。」
『…俺は珍しく貴様の乱雑な意見に今だけ同意したくなったぞ。』
ぶんぶんと、頭を振る。
このまま考えていても、埒があかない。完璧にあたしの専門外、いや、現時点の人知を越えた方面に飛びそうだ。犬にニンゲンに色恋沙汰を考えさせるようなもんだ。
、、、よし。
放り出した花束を広い、ぐっとそれを握りしめ、ぶんっとフォトグラムのヤツを花束でまた殴る。
空しい手応えだが気にしない。
「わからん、それで決定。というか、そう結論づけるのが今できる最善の策。」
『…愚直だな…。』
「だってあの人のナビだぞ?あれだけ他人の人生にびっくりイベントを発生させたんだ、このくらいおかしないと思うしかないだろ。」
あの人からすれば、あたしは人生の片隅の記憶にちょっとだけ刻まれている、小汚い店の名前も知らない小うるさいガキの店員。
その程度の存在に違いないだろう。
けれどあたしにとっては無駄に記憶に残る人となった。
実は軍のお偉いさんだった、わざわざキングサイズのCDをわざわざ買いに来る物好きだった。まるで一人だけ時間から外れたように、あまりにも歳不相応の身体になっていた。二十年以上前の過去で、何十年も先の物を持っていた。
あたしが知ってるあの人に対する情報は総合するとこのぐらいだ、だが此って、インパクトが大きすぎて、忘れられない事じゃないか?
『…そうだな…卑猥で屑で脳が消失しているのではないかと疑うぐらいの愚鈍な愚か者の…貴様が驚くほどの御仁だったな…。』
「頼むから、お前の悪口限定的によく動く口、ミシンに突っ込んでくれ。」
『…断る…もし…貴様が俺に、四つん這いに跪いて顔の原形を留めなくするほど醜く泣き喚きながら懇願するなら別だが?』
「お前がやれお前が。」
『…貴様理解出来なかったのか?ふむ…やはり真の愚か者は頭の構造が根本的に違うのだな…。此処まで来ると感心の域だ…真の愚か者として胸を張って良いぞ…。』
、、、此がバイト曰く、無口なナビ。
無口なんかじゃない。
声量を出さないだけ、三日にいっぺんぐらいあの、奇跡のような鈍感に聞こえればいい方だ。
「畜生が…。バイトのクソガキの前でその本性さらせ。」
『…考えておこう…。』
本当に何でこの、最低性悪外道悪辣非道奸悪粗悪卑劣鬼畜野郎があたしのナビなんだろう、、、。
はぁっと、ため息をつき、もう花びらが散りすぎてぼろぼろとなった花束を肩に添える。
そして、、、ようやく朝からの目的であった墓に向き合った。
まだ新しい墓。
見れば、あのナビのエンブレムが付いていた。この人の多分意向に添って、彫られたんだと思う。
此処の墓地はきちんと管理されているから、腐る有機物はどんどん処理されたり、有機物とかもどんどん墓地の管理保管庫にぶち込まれているのだろう。
墓は綺麗だ。
あたしは、もう花束として意味を成さないんじゃないかと思うほどのそれを墓に添える(形式だよ形式)。
すると、先にクローバーが一本添えてあった。
ちぎったばかりのようでまだみずみずしい、しかも四つ葉のクローバーだ。
此処は雑草が生えるような管理はされていない。
風でぶっ飛んできたわけない。
、、、もしかして、、、、。
「…似合わないな…あんなゴツイ野郎が何女々しい事してるんだ…。」
思わずそう呟いてしまう。
彼だ
。
ああいうタイプだ、多分花言葉なんてろくに知らないだろうから、四つ葉のクローバーっていう、此は、誰もがというか、、、彼でも知っているだろう物を選んだろうな。
『…幸福…か…。』
「洒落たことするんだな…。」
四つ葉のクローバーをあのゴツイ風体でちまちま捜したと思うと笑えるが、もしかしたらたまたま見つけて、世界でも有名なこの植物のまじないを思い出しただけかも知れない。
それは、カミのみぞ知るってヤツだ(個人的には前者、笑えるから)。
どういう意味で『幸福』を今はもう亡いあの人に手向けたのだろう?
此もまたカミのみぞってやつだ。
、、、でも、彼はあの人に会えて幸せだったという意味だけは分かった。
そっと元に戻す。
彼なりの精一杯のあの人への手向けなのだから。
処分されるとはいえ、此はできるだけそのままがいい。
そして、軽く黙祷に専念することにした。
科学の子も、この非科学的なことをやっている。
あの人と最後に会い別れたとき、僅かに感じた疑問が頭をよぎる。
電動とはいえ行動を制限される車いすのあの人が、階段などはどうしていたんだろうという小さな疑問。
今見た、彼を見れば、テストの解答を見たような気分だ。
とても簡単だ、人気の有無を確認でもして、彼が文字通りPETからこっちに出てきて車いすを動かしたりしたのだろう(ナビの力を考えれば、車いすごと持つこと出来るんじゃないか?)。
もしかしたら、あの人の世話も彼がやっていたかも知れない。
甲斐甲斐しく、あの人の世話をする彼の姿は面白いぐらい簡単に想像出来た。
まあ、意外とニンゲン的な一面も想像出来きる。
そう言えば、勘のいい彼が、あたし達が声を上げるまで気が付かなかったのだから、正に我此処に非ずな心境だった。
科学の申し子であるけれども、彼もそんなニンゲンくさい一面があったとうなら、黙祷をしていたと考えるなら納得出来る。
、、、何処の恋する馬鹿オンナの妄想ダイブなんだが、あーゆーカタブツそうなタイプは、メンタル面に免疫無いから、ずるずると落ち込むんだよ、免疫がないぶん、例えるなら、下手に男をとっかえひっかえするオンナより質が悪い。
そんな、くだらないことを含有量九十%ぐらいで黙祷を捧げた。
からから、、、からから、、、。
ざくざく、、、ざくざく、、、。
、、、ん?
何かを重たいものを転がす音と、芝生を踏む音がこっちに近づいてきた。
すっと、目を開ける。
誰か来た。
「ん?珍しい。この墓に女とは…。」
「あん?」
じーさんだった。
ぼろぼろの汚いナリをしたじーさん。
小汚いカートを押していた。
しかし、別に臭い匂いがするわけでもないし、よく見れば着ている服は唯のボロだ。ナリこそみすぼらしいが不潔にしているわけでは無さそうだ。態とそういう格好をしている、、、そんな感じだ。
片目にモノクルをつけたおっさん。歳は、、、七十、八十歳ぐらいかな?なんか、悪党的な顔してる。
肌といい、顔といい、雰囲気といい、、、何も似ているものはない、少なくともあの人の血縁では無さそうだ。
「墓に女が居たら悪いのか。」
「いやいや、そんなこといっとらんよ。唯珍しいといっただけじゃ。」
くつくつと、じーさんはしわがれた声で笑う。
、、、あれ?、、、このじーさん、、、どっかで見た気がする、、、。
何処だっけ?ポスターだっけ?テレビだっけ?、、、ま、いいや。どうせどうでも良いような内容だった気がする。
「ヤツに女が居たとは思いもしなかったぞ。」
「ちげーよ、あたしは唯の知り合いだよ。何?あの人はあたしみたいなのが好みだったの?」
はーと、息を付く。
連れに先立たれたオンナがこんな格好で来るか?
普通、そんなオンナだったら、もっとめかしこんで痛ましくハンカチを目尻にでも当ててるだろうに、、、。
「確かに、ヤツはあまり女には興味関心を持たない男だったが、お前のような小賢しそうなタイプは好みではなかったな。」
「解ってくれてありがとう。じーさん。蹴り飛ばして良いか?なにげに人のこと小馬鹿にしやがって。」
『…落ち着け…老人に対して貴様の野蛮な力を酷使したら…この老人を殺すことになるぞ…墓場は死者を葬る場所であって…新たに死人を生成する場所ではない…。』
「ふむ、お前のナビのほうが賢そうだな…。」
「じじい、クソナビ、死ね。今すぐ死ね。あたし直々に墓穴掘ってやる。」
何でアタシの周りには最低の部類が集まってくるんだろう。
ぐるるっと、軽く唸ると、毒舌野郎はPETに逃げた。
畜生。良かったな、すぐに逃げられる立場で。
「たく…で、じーさんもこの人の墓参り?」
「まあな。」
「知り合い?少なくともオトーサンとやらでは無さそうだけど…。」
「まあ、似たようなもんじゃ。こやつの仕事上の知り合いというのが妥当じゃな。」
「ふーん…二十年くらい前の?それとも…最近の?」
おっと、じーさんはアタシの言葉に隻眼を丸める。
そして、非常にじじくさい仕草でふむと、妙に節くれ立った手を顎に添える(この手からしてこのじーさん技術者か何かだな、、、しかもまだ現役バリバリの、、、)。
「ほお、知っておるのかヤツのあの有様を。」
「まあ、偶然に。」
「…関係者か?…」
「はぁ?なんの?」
「…彗星…時間…チップ…。」
「ん?なじゃそりゃ?」
じーさんは意味の分からない言葉を並べる。
ん?っと、あたしが顔を顰めると、眉間に深く刻まれたいた皺を和らげ、声を上げて笑い出した。
「な、なんだ?」
「はーははは!!安心したわい。女!お前はあのくだんに関しては部外者か!一瞬心配したわ!!」
「…?」
「本当にヤツとは唯の知り合いのようじゃな!!」
おかしくておかしくてたまらないといった様子で手と叩いて笑う。
、、、なんか、、、杞憂ですんで良かった的な感じだ。
、、、なんだよ。さっきの言葉の羅列がそんなに重要なのか?意味の分からない関連性のないものにしか思えんが、、、。
解らないことが妙に悔しいと思う。
「さっきもいっただろう、あたしとあの人は知り合いだよ。客と店員。あの人の異常な老化を知ったのは本当に偶然、で、あの人が死んだのを知ったのも偶然。だってあたし、死んだってニュース聴くまでこの人の名前すら知らなかったんだから。」
「ほお、何処の店だ?」
「下世話な想像するんじゃねーぞ、じじぃ。そーゆうサービスを提供する店じゃない。小汚いよろず屋だ。」
「ほう、ヤツが…物欲はあまりもたん男だったが…。」
「キングサイズのCDさ。」
ほぉっと、じーさんは目を軽く見張る。
「そうか、そうか。あんなもの何処で買っているのかとは思ったが…。」
「やっぱり聴いてたんだ、あんな大量に買ってただけあって。」
白い髪のあの人が椅子に深く腰掛け、あの黒いナビと共に、今では廃れきった音色に聞き惚れる。
ふと、そんな情景が浮かんだ。
「じーさん、あの人と知り合いなら、あの人のナビのこと…知ってるか?」
「ああ…まあな…。」
「あのナビが…今どうなったか知ってるか?」
「…さあ…?…その後のヤツのことはしらなんだ…ただ…ふらふらしていると聴くが…此も確かな情報ではないしな…。」
「…ふぅん…じゃぁ…解らないか…。」
「ん?」
「いや、こっちのことだ。」
、、、あのナビのさっきみた見たことも聴いたこともない実体化のそれは、謎か。
「ただ、ヤツは恐ろしく忠実なナビじゃったからの。もしかしたらひょっこりこやつの墓参りにでも来てるんじゃないかと思うわい。」
当たってるよ、後ちょっと早く来てたら鉢合わせしたぜ、じーさん。
なんかそれは、口に出すのは勿体ない気がして口は真一文字。
「そーだねー。そーかもなー。」
ぽんぽんと、墓を叩く。
じーさんは、あたしの様子に、その隻眼を険し何か言いいたそうに口をひん曲げる。
、、、勘のいいじーさまだな。
逃げるが勝ちだ。用もすませたしな。
「じゃ、じーさんあたしは帰るわ、用は済ませたし。あ、これあたしの店。暇だったら来てみなよ。あんた、あの人のこと色々知ってるみたいだし。」
「ふむ。」
うぃんっと、PETに住所を表示する。
じーさんはちらりと一瞥しただけ。覚えたのか?
「じゃ。」
「お、待て待て。お前、今、手が空いてるか?」
「あん?まぁ…。」
、、、バイクで来てるし。
じーさんは小汚いカートから、ぬっと、馬鹿にデカイモノを取り出す(どう閉まってたんだよ)。
「あ?」
「持ってゆけ。箱も付けてやるわい。…重いうえに、邪魔で仕方ない。」
コピーロイドだった。
しかも結構上物。
ぽんっと、箱に捻り込む。どうやら新品らしい。
、、、でも、、、あたし一体もってんだけど、、、(男からの貢ぎ物)。
おい、お前二体もイラナイだろう、、、。
、、、あ、バイトに、、、?
、、、ん、、、今日のバイト代に、、、?
、、、浮く!!バイト代浮く!!!しかも、元で、、、タダ!!
「くれるのか?」
「ああ、儂の有り余る知恵を借りたいという輩が折ってな。ちぃとばかしそれにのったら、報償の副賞代わりによこしたんじゃが、儂はナビを持っておらんし、こんなデカブツ邪魔なだけで、いらん。ゴミ捨て場に持っていこうと思ったんじゃが、此で結構重いし、そこまで行くのは面倒じゃ。此も何かの縁じゃろ、この老人を助けると思って貰え。」
「…なんかゴミを貰うような感覚で嫌だが…ま、有り難く貰おう。」
知恵貸し、、、な、、、このじーさん何処に、、、知恵を貸したんだ。
、、、このじーさん、見覚えなんかあるけど、、、なんか、、、あー、、、畜生思いだせん、、、いらいらする、、、。
、、、悪そうな関連で見た覚えが、、、。
むむっと、真面目に記憶の引き出しを探る、、、。
、、、迷ったのはほんの少しで、ばっと、突然その情報が出てきた。
あっと、思わず小さく声を漏らす。
、、、とんだ有名人だったよ、このじーさん。
おい、お前、このじーさん、、、見た覚えあるだろ、、、あったわけだ、、、。
毒舌ナビはあたしと違って、一瞬で思い出したようで、眉をしかめた。
、、、オフィシャルに連絡?
やめとけ。面倒に巻き込まれるのが落ちだ。
それに、このじーさん、別にまた馬鹿をやらかすような気配は無さそうだしな。
人畜無害なら放っておけ、あたしは通報をするいいこちゃんじゃなんだよ。
あたしは、よっこらしょとそれを箱に押し込みを担ぐ(こういうとき力があると良いな)。
「じゃあ、貰っていく。じーさん、金に困ってないくせに、みすぼらしい格好とはいいご身分だな。嫌味か?元、有名人。」
「…さぁ…なんのことやら…。」
とぼけ倒すつもりか、、、。
まあ、、、いいが、、、。
もう一度、その馬鹿でかい箱を担ぎ直すと、あたしは振り返らずそのまま墓場を出ていく。
多分、じーさんもあの人には積もる話もあるだろうし(それに興味は全くない)。
あー。今日は昔を思い出すわ、あのナビとも会うわ、変なジーサンとも会うわ。
、、、変な、、、一日だったな、、、。
帰るぞ、バカナビ。
家に帰って酒と洒落込もう。
バイトに、晩飯ついでに、料理を造らせればいいし(あいつ、ホント、神懸かり的な不器用のくせに、料理の腕は、なかなからな、、、)。
あ?なんだって、、、?
良いだろ別に、、、あたしは、墓参りに来たんだ。他に何するんだ?もう用は済んだ。
用が済んだら帰る、当然のことだろ?
ほお、、、。
、、、確かに?、、、墓参りに来る装いとは思えぬ装いをし?乱雑な扱いで生ゴミ一歩手前と化した花束を墓に添え不真面目に黙祷を捧げたが?だって?
五月蝿い。
今度、バイトの前でその腐れ切った根性さらさせてやる。
畜生。
お前、何であのバイトには、いい顔するんだよ。
なんか、妙に腹立つぞ。