街



 〈     であり、ダークロイドによる被害は増加の一歩を辿っています。尚、それに対しネット警察側からの会見によりますと     

 「やだ、怖いわね〜。」
 「ネット警察は何やってんだ。」

 インターネットシティの街頭テレビで流されているニュースの特番に、ちらほらそんな会話が聞こえる。

 「ダークロイドって普段何処にいるんでしょうね〜?」
 「多分よ、ウラあたりでじっと息を潜めてんだよ。ほら、ダークロイドって顔写真公開されてるじゃん?オモテ辺りじゃ、わかっちまうて。」
 「う〜ん。そうよね、さすがのダークロイドもこんなトコにいられないかな〜。」

 そんな世間話をしている二人組にすれ違いざまにぶつかった。

 「おっと…」
 「きゃ、ごめんなさい!大丈夫だった?」
 「バーカ、ボサッとしてるからだよ。ごめんよ、あんた。こいつどうも、鈍くてよ〜。」
 「ううん、大丈夫だよ。」

 ボクは、ずれそうになった大きめのサングラスを直す。

 「ぼおとしていたのはボクも同じ。気にしなくて良いよ。」
 「本当にごめんなさい!!」
 「いえいえ」

 ボクは軽く会釈をすると、また雑踏の中に消える。
 ボクは、あの二人の会話を思い出して思わず口角がつり上がるのが分かった。

 「案外…サングラス一つで気付かないもんだね。アイツの言う通りだ…」

 朝顔のような頭をした同僚が、得意げに話した通りで少し癪に障るけど…。
 灯台もと暗し。一般ナビもネット警察もまさか、ダークロイドのボクがオモテを代表するこのネット都市にいるとは思わないのだろう。
 このサングラスだって、適当に拾ったものだし。
 此処までうまくいくなんて、なんだか踊り出したくなる(もちろん、そう思うだけだよ)。

 その代わりに口笛を吹きながら歩いたが、誰も注目すらしてない。
 ボクは、そのまま特に考えなしにたまたま目に入ったカフェに入った(最近では、ボクらみたいな電脳生命体でも、食事という娯楽が楽しめるようになった)。そこは人気の店なのかナビがたくさんいた。
 ボクはその中を、態とナビの多い所を横切るが、みんな不快そうに顔をゆがめる程度で世界中で指名手配されるダークロイドなんて気づきもしなかった。

 なかなか面白い。

 ボクは、堂々とカウンターに座る。
 店員さんが近寄ってきたとき、反射的に身構えたが、店員さんは営業スマイルで唯注文を聴きに来ただけだった。
 ボクは、適当にメニューにでかでかと書かれている、オススメとやらのパフェを頼んだ。

 その間、ボクはよく冷えたお冷やをちびちびと飲んでいた。
 ボクの両端に座るナビは、メニュー表を見たり、美味しそうに自分の注文したものを食べていた。

 もしこの場で、ボクがダークロイドだって知ったらどうなるだろう?
 きっと、パニックが起きてお祭り騒ぎになるだろうな。それはそれで面白そうだけど、今は休暇中、仕事のことは忘れて遊ぶことにしよ。

 「お待たせしました。」
 「ん、あんがと」

 タイミング良くボクの前に注文した物が来た。
 メニュー表で見たのより、大きくてチョコレートソースがどっぷりとかかっていた(うっわ〜、僕は甘いのは嫌いじゃないけど…甘すぎるのはちょっと…)。
 でも頼んだんだし…、勿体ないや…食べきれるかな…これ…。

 ボクは、随分とけちくさいことを考えながらパフェを口に運ぶ。
 でも、思ったより甘くはなかった。なんかこう、ねっとりとした甘さがなくて、あっさりとしていてしつこさがない、これならいくらでもいけそう。これは嬉しい予想外だ。

 ダークロイドの連中ってだいたいが、あの城から滅多にでないから、ぴりぴりしてるんだきっと、たまにはこうゆう風に息抜きすると良いのに、今度は誰か誘ってみようかな?
 でも、同僚達にこうゆう娯楽を楽しめるお気楽物は数える程度にしかいない、後の連中はカタブツばかり、本当に頭の固い連中はいやだやだ。

 ボクは、口いっぱいにパフェを頬張った。



 「ごちそーさま。」
 「ありがとう御座いました。」

 ボクは、調子よく代金を支払う。
 勿論、支払いに使ったキャッシュデータは偽造品。ダークロイドはオペレーター持ちとは違って、口座なんか作れないから、ちょっとお金が有り余っているところから拝借させてもらってる。
 金は天下の回り物。いっぱいあるところから拝借したって構わないでしょ?どうせ本当の持ち主は気づきもしないからね。

 ボクはまた町中をブラブラと歩くことにした。
 コンビニ、本屋さん、ブティック、そういった店に入ってもやっぱり誰も気付かない(買い物もしたのに)。ブティックに至っては、店員さんが品物を進めてきたぐらい(進められた物は僕の好みじゃなかったからパスしたけどね)。
 両手に本日の買い物の成果をぶら下げて歩く(買った物はデータ化しても良かったんだけど、雰囲気が出ないから)。

 そんな中、ボクは、ネット警察の交番を見つけた。
 交番前では、面倒くさそうに欠伸をするオフィシャルのナビ、その横にはウォンテッドのデータが表示されていて、その中に勿論ボクも居た。
 そのデータのボクはいかに持って感じのお尋ね者の顔。うっわ〜、これ撮った奴!ヘッタクソ!写しかためちゃくちゃ悪いじゃないか!!ボクはもっと可愛いよ!!
 思いっきり毒づいてやりたがったが、いない相手に無駄だとすぐに悟った。

 その憂さ晴らしに少し、目の前のオフィシャルナビに悪戯を試してみることにした。

 その前に少し深呼吸。

 ボクは、思いっきりそのオフィシャルナビの目の前をよぎってみることにしたのだ。
 ちょっとしたスリルが楽しめる、別にばれてもあの程度のオフィシャルはボクの敵じゃない、気付いたと思ったら悲鳴を上げる隙も与えず始末できる自信はある。
 そう、誰にも気付かせないでほんの一瞬で。
 荷物を抱え直し、軽くステップを踏んで、手を何時でもアローの変換させるようにして…。

 じゃ、いくとしますか。
 全然、おびえとか怖いとか思わないで、例えるならそう、何処かスリルのある遊具にでも乗るかの気分だ。

 あのオフィシャルナビまで、後五歩、後四歩、後…三…二…一…。
 ボクはゆっくりと、横切った。

 「ちょっと!君。」
 「………」

 気付かれたか…やっぱり…。
 ボクは、手を荷物で素早く隠し、オフィシャルナビに狙いを付けた。
 が。

 「荷物が落ちましたよ」

 ずて。

 気付くどころか、荷物を拾ってくれた。拍子抜けて一瞬バランスを崩した。

 「ど〜も。」
 「いえいえ。」

 かなり近づいたのだが…全く気付かれもしなかった…。
 気付かれないのって…多分サングラスだけじゃない…やっぱり写真写りって大切だと思う…。

 ボクは苦笑した笑顔を浮かべつつ、ウォンテッドのボクを見る(本当に、印象まるっきり違う…)。

 「ご苦労様です…」
 「労いどうもありがとう御座います。」

 びしっと、敬礼されて背中がむずがゆくなるのはボクの気のせいだろうか?
 またづり落ちそうになったサングラスをかけ直す、さすがにサングラスがとれたらばれるだろうし。

 ボクら、ナビもダークロイドもそうだけど、人間と比べたらずっと数が多くて多種多様、でも、逆に言えばいろんな種類のナビが居るということは、差はあれ似ているナビもいるということ。
 だから、だから少し似ているからといってみんなそんなに怪しむことはないのだ。
 今や、人間の何倍と居るのだから、たまにそっくりなナビに出会っても、人間で言う、世の中には自分にそっくりな奴が数人居る、ってやつですませてしまう。
 自分で考えていてなんだけど、数が多ければ人間とさして変わらなくなるんだと、苦々しく思った。

 そのせいか、ボクは、するはずのない苦みが本当に口の中に広がっていくように感じ、たまらず近くのベンチに座り込んだ。

 先に座ってたナビが突然座り込んできたボクに不快そうに顔しかめて、席を立っていった。
 ボクは占領したベンチで、イライラで貧乏揺すりをしているのは分かったが、誰も見てもいないから構いはしない。

 規則正しく流れる雑踏、みんな同じように動く、見ていても何の感慨も浮かばない。
 ボクが此処でメテオでも一つ落とせばパニックになって同じように動く奴は居ないだろうな。

 ぼおっと、そんなことを考えていると、その規則正しい雑踏の中に一人だけ立ち往生するナビが居た。
 そのナビは、ランダムを見ながらおろおろとしていて酷くその雑踏の中では浮いていた。
 例えるならば、絶え間なく流れる流星群の中の動くことないお月様かな(ん?ちょっとちがうかな?)。

 自分でも分からないけど、たまたま眼があっただけのその子に、分かるように大げさなぐらい手招きをした。
 ボクの行動はもの凄く予想外だったらしい、その子はどうしようかといった風に口元に手を宛っていた。来なければそれはそれで構わないんだけど。

 その子は、雑踏をかき分けるようにボクの元へと駆け寄ってきた。
 まさか本当に来るとはボク自身、冗談半分だったので少し驚いた。

 「あの…となりすわっていいですか?」
 「あ、ああ…。」

 別にボクの物ってわけでもないし…。

 その子はおずおずと、ボクの隣へと座ると、いかにも疲れたというばかりに足をさすった。
 ボクはその子の展開させたままのランダムを一瞥すると、それは何かリストだった。
 ボクのその視線にその子は、オペレーターの代わりで…と、照れくさそうに頬を掻いた。

 別に訊いてないよ。
 その言葉はあえて飲んだ。

 「何で、あんな馬鹿みたいに立ち止まってたわけ?」
 「あの…その…」

 別にきつく言ったつもりはなかったんだけど、その子は申し訳なさそうに体を縮めた。
 ボクはこういった奴は嫌いだ、相手の物言い一つで、うじうじして、自分の方に非があるんだろうかと過剰に反応する奴。
 ボクの周りが変わってるのかも知れないけれど、ボクの周りに連中は相手なんか関係なしにこんな物言いをする。これが当然だから(もっと酷い言い方をする奴の方が多い)、まあ、ボクの一般論はさておき、普通のカタギな奴らでもこのぐらいの物言いはすると思うから、こんな日常会話にビビってたら精神がかなり滅入ると思う。

 まあ、えらそうに講釈できる立場じゃないけどね。

 「道に…迷っちゃって…」
 「………」

 ナビが迷子なんて、間抜け話も良いところだ。
 マップがろくに行き渡ってないウラは別として、此処はオモテだ、そこら辺から、行きたいところに行くための此処のマップをインストールすればいい話。馬鹿じゃない?この子?

 ボクは幾分、今思ったことを和らげた口調でその子に伝えると。

 「そうしたいと思ったんですが…しばらく前からアップデートをしてなかったせいか…私とは型が合わなくなっていたんです…それで…ダウンロードは出来ても、インストールが出来なくて…」
 「うっそぉ…」

 一昔前ならともかく、今は短期間の間にどんどんと改良最新型に移り変わる。ボクらダークロイド自分で出来るけど(アップデートするデータは勿論強奪もの)、非自立型は、ボクもあまり詳しくはないが、して貰わないと出来ないらしい、杜撰すぎる。間抜けも良いトコだ…。此処まで来ると拍手までしたくなる。

 「君さぁ、いっぺん帰ったら?」
 「でも…頼まれ事はまだ終わっていないんです。」
 「どれが?ああ、後一つじゃん」

 ご丁寧にもランダムに記されたものには、チェックが付けてあって分かりやすい。
 チェックが付けていないのは一つだけだった。
 その付けていない物を見てボクがぁんとぶん殴られたような衝撃を受けた。

 「それ今、買えるはずないじゃないか…」
 「はい?今?」

 ぱちくりと、その子は目を見開く。
 そのチェックが付けていない物は…。

 「確かに買えるよ…後一週間後にね…」
 「えぇええ!?一週間後!?」

 その子のオペレーターは何を勘違いしてるしてるのか知らないけど、売ってない物をどうやって買わせるんだよ?発売日ぐらい調べておくべきでしょうが…。
 ダークロイドのボクでも知っているようなことなのに…。
 その子は顔を真っ赤にして、

 「通りで店員さんに変な顔されると思った…」

 気付くでしょ…普通…。

 その子は、勢いよく立ち上がると。

 「すいません!おかげで助かりました!!じゃなかったら私ずっと恥をかきに回るところでした!!」

 ぶおんと、空気を裂く音がするぐらい強く頭を下げた(眼回りそう…)。
 そんな大げさな動作はともかく、僕は此処最近で一番驚くことを言われた。
 だってさ、このダークロイドのボクがお礼の言葉だよ?
 嘲りや、侮辱の台詞なら月並みの物から、詩的な物まで聞き慣れてるんだけどね。

 「あっそ…」

 どう反応して良いのか分からなかったけど、一応返答はしてやる。
 頼むからそんなきらきらした目で見ないで、自分が善人にでもなった気分になって凹むから…。
 こんなトコ同僚のあいつらに見られたらいい笑い物になる…あいつらしっつこいもん。

 「あのさぁ?君何処に住んでんの?」

 話を逸らそうと、街頭テレビにたまたま流れただろう住居案内のCMを見てさり気なく質問を投げかけた。
 別のボクの問いに怪しむことなくあっさりと自分が住んでいるシティの名前を言う(個人情報をまぁもう、ぺらぺらと…相手が相手だったらどうすんのさ)。
 ふと、その名前に引っかかる物を感じた。何か最近きいたことがあるような、ないような…。

 こんこんと、こめかみを強めにつつくが思い出せない、まあ、そのうち思い出すでしょ。
 その子は、展開しっぱなしだったランダムを閉じ、もう一度ボクに頭を下げると。

 オペレーターだろう名前を怒ったように呟いて、ボクの目の前で、消えるようにログアウトした。

 あまりの不便さを知って、非自立型じゃなくて良かったなぁと、改めて実感した。

 その時急に陰った。
 インターネットシティは年中青空だから、曇る事なんて絶対ないつまり…。

 「何かよう?ひとのつかの間の一時を邪魔する趣味は、個人的に頂けないな。」
 「ふぅ。迎えに来た相手に随分と酷い言い草だね。」

 振り返らなくても声で分かった、このサングラスのネタを提供してくれた、ナルシストだ。
 横目でナルシストの顔を見ると、まあよくも、そんな派手なサングラスが売ってたなと思うぐらいのサングラスを付けている、良い趣味してるホント。

 「で、ボクってお迎えされるほどお偉いさんだっけ?」
 「おふざけもそこまでにしてくれ、私だって事情って物があるんだ。」

 芝居がかった仕草で肩をすくめる、長い付き合いとはいえ、こればかりは無性に癪に障る。

 「仕事?」

 うんうんと、満足げに首を振る。何でこいつの仕草は全部芝居がかって見えるんだろ。

 「休暇途中に…」
 「文句を言ったって仕方ないだろう?上の方実に気まぐれなんだよ。」

 自分もといわんばかりだ。今頃あの陰気な城の玉座で偉そうに足でも組んでいるであろう、一応自分の上司。けれど、アイツをホントに心から慕っている奴なんて、いつもちょろちょろと付きまとっているあのたらこ唇ぐらいだけどね。
 けど本人は気付いているのやら、ある意味馬鹿だからね(本人の前でそんなこと言おう物なら欠片も残さずデリートされるけど…)。

 「で。なにするのぉ〜?」
 「君…訊いてなかったのかい?この前からメンバーはともかく、計画は聴かされていたはずだよ?ほら…」

 その言葉で思い出した、さっきの子が住んでいると言ったシティは近々ボクらの狙う、とあるデータがある場所だったのだ。
 そして作戦内容は…。

 「ああ、攻撃目標が全破壊の、あの物騒な話ね。過激派の奴らが我も我もと参加したがってた…。」
 「そうそう、それ。ああいった連中は本当に美しくないね。ん?」

 突然立ち上がった、ボクに首をひねった。

 「何いってんだよ、君だって本当は戦いたいんでしょ?かっこつけちゃって〜」
 「…さぁね?確かに、私達ダークロイドという存在は好戦的な方だけれどね。」

 濃い色のサングラスを通しているのに、視力の言いボクらにはよくお互いの目がよく見えた。
 ボクは買った物をデータ化して、一応ボクの根城に素早く送った。
 ボクが軽くストレッチを始めると、意外そうな声で。

 「珍しいな、君がやる気を出すなんて。」
 「ん〜?ちょっとね。」

 ボクは自分でも分かるほど笑っているのが分かる、なんだかんだ言ったってボクは戦いが好きのようだ。
 それに…。顔見知り程度でも…会ったことのある奴からっていうのは…もの凄く面白いんだよね…。

 「ん?何か言ったかい?」
 「べっつにぃ〜。」

 あまりに小さな声で聞こえなかったらしいが、まあ、どうでも良かったらしいが。

 ボクは、鬱陶しいサングラスを投げ捨てた。
 何処かで誰かがそのサングラスを踏みつぶす音がやけに爽快に聞こえた。














 取り合えず、ダークロイドのみなさんが書きたかったんです。
 で、最初は誰にしようかな?と迷ったんですが、某サイト様にストライクしまして、スターマン君に出ていただきました(あれ…似てない…)。
 プラントマンさんには、後半出張っていただきました(こちらも…似てないな…)。
 全くと言っていいほど詳しくないPC用語を偉そうに並べてみましたが、間違ってる確率がとても高いです。
 えっと主旨は…訊かないで頂けると有り難いです…。

 BYシンプル