以外と見てますよ。・2・
昼間から間をおいて、枕とシーツの後始末も御夕飯の下拵えも、それに御夕飯のお片づけも終わった後、さあ、後はお皿を洗って、、、と、考えていたときに飛びます。
お食事中に私はその場には居なかったので、お嬢様はさて、どうなったかとも考えていたときでもありましたが、、、(因みにお昼の騒ぎで少しばかり私の様子がおかしくても、彼女は何か気付いたのでしょうが、あえてそっとしてくれました)。
そんなときに、ファーストコンタクト同様其れも突然でした。
ああ、、、また付け合わせのお野菜残していらっしゃる、、、。などと、私自身の貧乏性故か、勿体ないなぁと思いながら残飯を処理し、お皿に手を伸ばした、、、その時、、、。
「ちょっと!貴女!!」
「ひゃぃいぃい!!おじょ!おじょ!お嬢様!」
「そうよ!わたしよ!!」
「ど、どど!!どうして此処に!?」
お皿を、食器洗い乾燥機に入れようとしていましたから、お皿に手を伸ばす前で良かったです。でなかったら、、、驚いてきっとお皿を落としてしまったでしょうから、、、。
「あのハウスキーパーにきいたのよ、貴女が何処にいるのかって、…人が尋ねてきたのに…何変な声上げてるのよ!」
「…び…びび!…びっくりしただけです!!!」
急に声をかけられて、驚かないなんて凄いこと私には不可能です、、、。
お昼まで面識の無かった相手でしたら尚更だと思います(お嬢様同様でしょうが、言葉通り彼女にきいたようです)。
、、、淡い色のパジャマを着ていることから、ご就寝前と言うことなのでしょうか、、、。
しかし、不自然に両手は後ろに回されています、、、。
「有り難く思いなさい。」
「はい?」
突然ずんずんと、歩幅広く一気に私のそばに来ると、そう宣言しました。
、、、何をですか?
と思いましたが、幸か不幸か私はびっくりした反動で口が動きませんでした。
「このわたし直々にお礼をしに来たのよ。」
「はい?」
オウムのように同じ返事をしてしまったのがお嬢様の、気に障ったかぴくんと、片眉が動きましたがそれ以上の反応はありませんでした。
「貴女が言ったこと実行したら、面白いぐらいうまくいったわ!!」
「ああ、そうでしたか…旦那様のご様子は?」
「うん、お父様のことが好きって言ったらすっごく喜んで、おーほほほって高笑いしていたわ。」
「…そうなのですか…。」
喜んだとはともかく、おーほほほと高笑いとは、、、あまり、、、想像したくないです、、、。
旦那様、、、おいくつでしたっけ?
ああ、そう言えば、あまり旦那様のことは、、、彼女は、、、詳しく教えてくれなかった気が、、、。
、、、。
、、、知らない方がいいことってありますよね。
「で、お礼を言いに来たのよ。」
「わざわざすいません…。」
「本当に滅多にないことなの。貴女みたいな使用人にお礼を言うなんて!」
「…みたいですね…。」
お嬢様は、一回の接触だけでも相当の気位だと解りました。
そして、私は、もの凄く貴重な体験をしているのだとも解ります。
「後もう一つ!疎い貴女に、滅多にない体験をさせてあげるわ!」
「疎いって何にですか…って!!」
勢いよく後ろに回されていた手を突然目の前に突き出されてまた驚きました。
しかし、唯手を出されたわけではないようでした。
昼間もこんなピントが合わない至近距離で何かを突きつけられたなぁと思いましたが、どうやら今回もそれと同様のようです。
しかしお昼と違うのは、、、その画面に中に何かが居ると言うことでした。
相当私はびっくりしましたが、中に居た何かも驚いているようでした。
「あの…。」
「驚いたでしょう!!貴女ナビなんて見たことがないみたいなアナログだったから見たら驚くと思って、わざわざお父様に借りてきたのよ!!」
私は色々と一瞬で考えたりしましたが、、、逆にごちゃごちゃして口が上手く回りません、、、。
ああ、私は、こんなにも押しに弱い女だったのですね、、、。
眼前に突きつけられたのは流石に対応に困るので、取り合えず、数歩身体をひき、漸く、、、PETの中にいる、、、ナビとまともに顔合わせが出来ました。
なんと言いますか、、、。
、、、お嬢様の言葉通り、、、ごつい、、、という感じのナビでした。
大変失礼ですが到底、旦那様のお仕事の手伝いをするために作られたとは思えません。どちらかと言えば荒事の方に向いている気がします。
ファミリーネームにちなんでいるのか、旦那様の営む会社はしばしば磁石がモチーフとされます。
ナビもどうやらそれに違わず磁石がモチーフとされています。
しかし、、、なんともバランスが悪いような体型です、、、。
「…え…あの…初めまして…。」
『こちらこそ初めまして、お嬢様がお世話になりました。』
私はこの場合、ナビという特殊な存在の彼にどういう立場から接すればよいのか解りませんでした。
取り合えず差し障りのない挨拶という手段をとったのにも関わらず、彼から返答が帰、ちょっと驚きましたが、昼間のお嬢様の台詞を考えれば、、、。
声は何というか、電話を通したような、どことなく籠もったような声です。
、、、後、、、私の苦手なタイプだと、、、直感で思いました、、、。
「えっと、こちらの方は…。」
「お父様のナビよ、ちょっと借りてきたの。貴女始めて見たでしょ?」
「…はい…驚きました…。」
「素直で良いわ。」
お嬢様は私の目の前に付きだしたPETを引っ込めると、うんうんと、お嬢様は満足そうに驚きました。
すごくからかわれているのが解ります。
私は、この苦手分野を克服しようと心に誓いました。
手始めに、彼女に色々と積極的にきいたり、情報誌を読んだりしましょう。
そして、私の一瞬で結んだ硬い誓いを知ってか知らずか、お嬢様がにっと、笑いました。
「貴女、気に入ったわ。」
「え?」
「色々と、遊べそうな感じ。」
「…遊べそう…。」
本当のこのお嬢様は、大人にたいして全くの容赦という物がありません。
この面に関しては、我が儘と言うよりは、大人を使うことが当たり前として育ったからかも知れません。
「わたし、明日の朝帰るわ。」
「ああ…そうなのですか…。」
、、、本当に、、、お嬢様という子は、話が度々飛ぶというより、脈絡を考えず、感情のまま思い立ったまま話す、嵐のような子です。
その為なのか、私は大して驚きませんでした。
「貴女、あのハウスキーパーからきいたけど、パートなんでしょう?」
「はい、色々と半端仕事をしているので。このお仕事もその一つです。」
「今回限りなの?」
「まあ、そうでしょ…。」
「駄目。」
、、、駄目、、、と言われましても、、、。
「今回限定じゃなくてわたしがまたきたときに居なさい。また、貴女の巫山戯た対応が見たいわ。」
「………。」
何だか、複雑な心境です。
褒められているのでしょうか、、、?
「あー!もう面倒くさいわね!貴方が説得して。」
私の生返事に早速限界に来たのか、お嬢様が、私にPETを私に押しつけました。
むすっと、私の前に仁王立ちしたまま動く気配がありません。
取り合えず、PETの中の彼と話すことにしました。
『ああ、もう前置きとか省くぞ…。お嬢様がまた来たときに居てやってくれ。お嬢様が人を気に入ることは滅多にないことなんだ。光栄なことだぞ?』
「…其れは解りました…しかし私は、半端仕事を詰め込むような日々ですので…その時に都合良く開くかどうか…によりますが…。」
私は、文字通りお嬢様の手から離れた彼が、一瞬にして声音というか、態度を変えたことに、思わず萎縮してしまいました(えっと、、、ドスの利いた声というのでしょうか?)。
なんと言いますか、口の強い、、、言葉下手な私の苦手とするタイプです。
このナビの第一印象はどうやら、当たりはずれがそれぞれ半分半分だったようです。どうやら硬い見た目に騙されやすいですが、大会社の社長のナビというのは伊達ではありません。しかし、荒事に向いていそうという、私の第一印象もやたら外れではなかったようです、、、。
『それなら俺が、旦那様に口利きして正式に雇ってやることもできるぞ?なに、お嬢様が気に入ったって言えば、旦那様は二つどころか一つ返事でOKをだすぜ?そうすればアンタは即効でお嬢様付きの相当な使用人になれる。しかもお嬢様達はこの別荘に年に二、三回来れば上等な方だ、もしかしたら来ない年だってあるだろうな。働くのは年に数度で給金はがっぽり、楽な仕事だろ?遊んで暮らせるようなものだ。』
、、、実によく回る口です(正直感心します)。
甘い言葉が多めで、誘惑が強い誘い。
言葉通り、私はきっと今よりずっと楽に暮らせます、、、。
毎日毎日、色々な半端仕事を掛け持ちしなくて良いでしょう。
お金の心配をせずに生活が出来るでしょう。
そして何より、一緒にいる時間が出来て、息子に寂しい思いをさせないでしょう。
しかし、なんと言いますか、、、私は、、、こう言うのは嫌です、、、。
「申し訳御座いません。お断りいたします。」
『ぇ…!』
ナビは、眼をまん丸くして、奇妙な声を上げて私をまるで不可解な物を見るように、小さな画面から見上げました。
あ、、、このナビの眼の色は緑なんですね、、、と、改めて思いました、、、。
そして、今まで眼が緑だと改めて、気付いたことにちょっとイラッとしました。
このナビは、私をまっすぐ見ていなかったんだと、気付いたからです。
私なんてまっすぐ見る価値がないと、半端仕事をしている私を馬鹿にしているのだとも。
私だって、プライドぐらい在るんですけどね、、、?
『どうしてだ!?うまい話だろ!?』
「はい。しかし嫌です。」
『嘘付け!』
「付いていません。付いたって私にメリットはありません。」
『何がだ。お前は金が欲しいから仕事も就いたんだろ!!』
「はい。しかし、其れと此とは仕事が違います。」
『仕事は仕事だろう?何が嫌だ。』
「今自分がしている仕事をはっきり言えるか言えないかですよ解らないんですか。」
そこで、何故か投げ返し投げ返しの会話はぶつりととぎれました。
最後の言葉は思わず一息に、一気に言い返しましたが、、、何かいけなかったのでしょうか、、、?
なにか言い過ぎたでしょうかね、、、?
『…お嬢様は…お前の…何処がいいんだ…?』
「さぁ?私も正直驚きです。」
『お前性根が、悪いな。』
「…初めて言われました…あなたほど口が回るのでは無いので…。」
『お前今でよく闇討ちとか喰らわなかったな!!!』
「…どうしてですか?…」
『いっぺん頭の中リセットしてこい!!!』
「無理ですよ?私は人間ですよ。できませんよそんなこと。」
ぶちんと、音と立てたんじゃないかと思うほど勢いよく、がおーと、まるで狼が吼えるような怒鳴りに思わずPETを遠ざけました。
、、、お嬢様が面白いと言った理由は此でしょうか?
解らないでもないです。
「何言い合ってるのよ。」
お嬢様が、そので憮然とした態度で私たちの会話を打ち切りました。
『お嬢様!この女のどこが気に入ったのですか!!』
それを待っていたかのようにナビが、お嬢様へと声を投げかけました。
「なんとなくよ。それじゃいけない?」
『お嬢様、俺から見たらこんな女、お嬢様の傍にいたって何の有益にもなりませんよ!いえ!かえってきっと悪影響です!!』
「どうしてよ?」
『こんなろくに定職にもつかずに、半端仕事をこなしている様な女はろくな事もしてませよ!!』
「ろくな事じゃないことって何?」
『お嬢様が知るには薄汚いことですよ。』
けっと、口に出すのも汚らわしいと言わんばかりに私を一瞥しました。
私は、衝動的にこのままPETを地面にたたきつけてやろうかと思いました。後もう、五、六歳若かったらやってしまったかもしれません。
「残念ですが、あなたが期待しているようなことはしていませんよ。」
『どうだか…。』
完全に見下している目。
どうやら、私は彼の合格採用基準から完全に外れたのでしょう。彼からすれば半端仕事を、せこせこやっている程度の低い人間(つまり私ですね)に、小ばかにされたと感じたということでしょう。
そのことで意固地になって。大切なお嬢様にこんな自分が気に食わないやつ近づけさせられやしないと。
なんとまあ、、、人間的な、、、。
久しぶりに、私の中に純粋に赤い赤い炎がちろりと私の神経を撫でたのがわかりました。
いや、久しぶりに本格的に火をつけたので、ちょっと炎の火加減がわかりません、、、。
色が赤色で止まればいいのですが、、、青色か白色かもしれません。
「検分が狭いんですねぇ…。」
『何だと!!!』
もしここに彼の実態があったのなら確実に私を殴り倒しそうな、そんな剣幕でした。
しかし、彼はこちらにはいません。
「お嬢様。私は彼から見て相当に程度の低い人間だそうですよ。」
「…?なにそれ?どういう意味?」
「私を選んだのは、お嬢様が間違っていると、いうことではないでしょうか?」
『な…っ!貴様!そんなお嬢様が誤解を招くような…!!』
しかし時すでに遅しでした。
「何ですって!!わたしの人選が悪いって言うの!!」
『いや…!その…!そういうわけではなくて!!』
「違わないじゃない!!何!あなた私に指図する気!!!」
『いえ!そんな!俺は…!!』
「五月蝿いわ!黙りなさい!!あなたの価値観を押し付けないで!!私が良いと持ったから良いのよ!!」
、、あらあら、、、。
『〜!!き…っ貴様ぁ!!』
「私に怒鳴るのはお門違いでは?」
「ちょっと話をそらさないで!!!」
『あのお嬢様!!そういう訳ではなくてぇえええっつ!!!』
おろおろと、見た目に似合わない可愛い慌てようを見せながらお嬢様に何とか自分の意思を訴えようとしましたが、、、。
「見苦しいわよ!!」
『ああ!!お嬢様ぁあああ!!』
まあ、後は、私がお昼に体験したお嬢様の癇癪がナビのほうに炸裂したとでも言いましょうか。
我ながら、少しばかりやりすぎで、大人気なかったと思います。
ですから、、、
ただ黙ってみてました。
、、、けれど、流石にそれ以上は、、、焚きつけませんでした。
私も一応人間ですからね。
やりすぎたとは思いましたが、そんなにあっさりと許してあげるほど聖人ではありません。
私はただ黙って、お嬢様とナビとの加熱してゆくやり取りをずっと見ていました。
おさまるまで、、、私の記憶が正しければ一時間は確実にかかったと思います。
しかし、私は退屈したりはしませんでした。
正直に申しますと、聞いている身分では面白さを感じたほどです(お嬢様がずいぶんとお気に召した気持ちが深く深く理解できました)。
、、、私はそのとき、、、きっと、うんっと意地の悪い顔をしていたのではないでしょうか、、、。
それから、なんだかんだで私は手が空いていれば、、、という条件でお手伝いをすることになりました。
そのことを彼女に伝えると、彼女はまるでわかっていたかのように笑って、わかったといっただけでした(彼女がここ本業です)。
最後までナビのほうがぐずっていましたが、、、お嬢様は強かったのですね、、、。
その後、条件通り、私はお嬢様が別荘に来るということを彼女を通して教えてもらい、予定を工面してできるだけ別荘にお手伝いに行きました。
それからしばらくして条件のよいお仕事を見つけましたが、それは本職として、私は別荘のお手伝いを続けました、、、。
まあ、それ今でも続いています。
変わったことといえば、彼女が私に私が別荘の管理人を任せたことぐらいです。
今は彼女はこの仕事を引退したような形で、、、私が助けを請わない限り彼女は第二の人生と笑ってうまく遊んでいるようです。
ばりばりばりばりっつ。
ばっばっばっば。
最近ようやく聞きなれたヘリの音が、簡易へリポートから聞こえました。
私は音に従うようにそちらに向かいました。
ちらりと、PETをみて時間を確かめると、、、ご予定より、、、軽く、、、一時間は早いお着きでした。
お嬢様の急な予定変更は当たり前なのですが、、、ちょっと困ることには変わりありません、、、。
しかし、最近は、将来の若旦那様(私はそう思っています)が、前もって連絡をくれるので大変助かっております。
ヘリポートに私がつくと、ヘリはもう地面すれすれの着陸寸前の状態で、実によいタイミングでした。
「久しぶりね!!貴女、元気にしてた?」
「お帰りなさいませ。お嬢様。」
ふんわりとした御髪をたなびかせながら、相変わらずの元気のよさでヘリから降りてきました。
最近では年齢のほうをかなりお気になさるようですが、特に気にする必要はないと個人的には思います(容姿がきれいな方ですからね)。
「相変わらずお元気なようで。ところで、だんな様は?」
「お父様は今日は置いてきちゃった。」
にこにこと、あっさりと、まさに、、、言い捨てました。
今頃だんな様は、若旦那様のマンションであの甲高い声で泣きながら、家事にいそしんでいるのでしょう(まあ、旦那様に元からああいった一面があったことは存じておりましたが、財産の大半を失ってからはそれが謙虚になった気がします)。
「待ってくれよ!もう先に下りないでくれよ。俺にも用意ってもんが…。」
たっと、少し遅れて若旦那様がようやくヘリから降りてきました。
肩には若旦那様のナビも乗ってらっしゃいます。
「お帰りなさいませ。若旦那様。」
「どうも。お久しぶりです。でも…その若旦那様って言うの勘弁してくれないかなぁ…。」
「そうですか…、しかし時間の問題ですから…。少し早くお呼びしても特には問題はないかと…。」
「あのそれは…ぁがっつ!」
「やだもう!ばあやったらぁ!!恥ずかしいじゃない!!!」
若旦那様の言葉は、頬を桃色に染めたお嬢様の背中に向けた盛大な張り手によって強制終了させられました。
もーやだーと、まるで思春期の少女のような反応をみせるお嬢様。私の見立ては正しいと思います。
いてて、、、と、辛そうに眉をひそめる若旦那様のサングラスがわずかにずれていて、思わず私もくすりと笑ってしまいました。
「まったく…。」
『諦めな、相棒。』
ぽんと、触れないはずのフォログラムの若旦那様のナビは若旦那様の頭をたたきます。
相変わらずほほえましい限りです。
『はっ…。その女は心底根性が腐ってんだ。何言ったってききやしねーよ。』
、、、彼とは相変わらずです。
ぎろりと、お嬢様の肩にいる彼から睨まれました。
彼はここ最近、旦那様のナビから、お嬢様のナビへと変わりました(昔の願いが今になってようやく叶ったようです)。
、、、何故かお嬢様は、旦那様から彼を譲り受けた経緯を教えてくれませんでしたが、、、。
ちなみに、このナビとは相変わらずの関係が続いています。あれから、お嬢様のナビからは目の敵にされました。仕方がないといえば仕方がないことです。
私も悪かったのですから、、、。何を言われても言い返そうとすら思いません。
今思い返してもずいぶん大人げなかったなぁと、思うほどです。
「…って、おいおい。お前なぁ…相変わらずこの人を敵にしてるなぁ…。だめだぜ、女性は丁重に扱わないと…。」
『はっ。こいつは女としてみる価値ないぜ。』
「………。」
「いいんですよ。若旦那様…私にも十分非があるんですから…。」
「貴女はもう…相変わらずお人好しなんだから…。」
お嬢様は肩をすくめます。
その肩で彼はずいぶんと、不機嫌な顔をしていました。
私に会うときの彼はいつも不機嫌丸出しですが、、、今日の彼は一段と不機嫌そうに私を睨んでいます。
なにか、、、面白くないことでもあったのでしょうか、、、。
「にしても、お嬢様今日のご予定は?」
使われ者が、主人がきてから予定を聞くというのは実に不心得なことかもしれませんが、お嬢様に関しては、別です。
お嬢様はあまり予定を立てて別荘に来るというお人ではありません。昔、一度お嬢様に宿泊時のご予定を聞いたら、そんなものはない、そのときに言う。、、、とのことでした。
ですから、エプロンの中にしまっているPETをいつでも使えるように用意しているのは、お嬢様の思いつきプランについていくことには絶対必要なことなのです。
「ううん、今日は別に予定はないわよ。今日は、貴女に用があってきたのよ。」
「私にですか?」
「ええ貴女に。」
にこっと、お嬢様が笑いました。
、、、珍しいことではありません、お嬢様の突拍子のない行動にはもう慣れっこです。
「そうそう。今日は…だぁ!!」
「貴方は黙ってて!!」
ばしっと、お嬢様は若旦那様の側頭部を強く殴打しました。
ああ、、、これは、痛いでしょう、、、。
「貴女、驚くわよ!!」
、、、あれ、、、いつかこんな台詞聞いた覚えが、、、。
『お嬢様本当に、この女に…。』
「何度も何度もしつこいわね!」
『いや…あの…その………はい。』
畜生と、低くつぶやくと、、、私をもう人睨みし、項垂れました。
、、、私はまだ何もしていないと思うのですが、、、。
ものすごく納得してない的なオーラが隠す気ゼロで私には見えました。
「ちょっと待っててね。ちょっと、ほら持ってきて。」
「………こういうのは、いつも俺なんだから…。」
ぶちぶちと、まだ痛みが残るらしい側頭部を押さえて若旦那様は、ヘリへともう一度戻っていきました。
はてと、私が小首をかしげると、お嬢様はさらに笑みを深くしました。
この笑顔は、昔から変わることはありません。
「ちょっと、貴女のPET見せてちょうだい。」
「え、はい…。」
お嬢様のご指示通り、エプロンからPETを取り出すと、お嬢様は驚いたように顔をゆがめました。
「何これ、二世代前のPETじゃない…。」
『新機種PETの普及率が90.9%だぜ?お前ドンだけ遅れてんだよ。』
、、、ただ、換えるのが面倒なだけだったので、、、。
基本的にPETの新機種への変換は、簡単な手続きで、無料ですから別にたいしたことではないのですが、、、別に不便はしていないので、、、そのままでよいかと、、、放っておいたらまあ、二世代ほど遅れしまったのです、、、(PET事態今はかなり安価な代物になりましたから、買い換えるという手もあります、、、、)。
「まぁ、ちょうどよかったわ。」
「はい?」
「このPETに大事なデータ入ってる?」
「はい、一応は…。」
とんとんと、お嬢様はPETを小突きます。
「ねえ、データ移し替えることできる?」
『まあ。型は古いですが、できないこととはないですよ。』
「だって、よかったわね。問題ないわよ。」
「………。」
ん?と、私は取り残されているなぁと、わかりましたが、、、私がお嬢様に問いかける前に、若旦那様が、ヘリから出てきました。
「はいよ。ご注文通り…お姫様。」
「ありがと。」
若旦那様から、何かを受け取るとそのまま私にほとんど押しつけるような形で私に、それを渡しました。
「見てみてよ。」
「あのこれ…。」
「貴女にあげてるのよ、相変わらず鈍いわね。」
、、、、、、。
びっくりして一瞬止まりましたが、、、そういえば、、、お嬢様から何かをいただくのは初めてでした、、、。
「あの。本当に私めなどに…?」
「ええ。まあ、いつもお世話になっているお礼?…でいいのよね?」
「…黙って渡せばいいのに…。」
若旦那様があーあと、うめきながら額を抑えました。
、、、若旦那様が何か吹き込んだのですね、、、(でなかったら、失礼ですが、お嬢様がこのようなことを思いつくはずないでしょうから、、、)。
『まあ、ばあやさん。この女の気まぐれまぐれのおとしもんだと思って素直にいただいちゃえよ。』
「はぁ…。」
『この優男が吹き込んだとはいえ、お嬢様がお前なんかに恵んでやったんだ、無駄にしたらゆるさんぞ。』
「わかっております。」
二人のナビに挟まれるような形で、、、。私はそれの綺麗な包装をときました。
「…これは…。」
「気に入った?よくわかんなかったけれど、宝石とかお洋服とか貴女は好まないでしょ、それにあの人からそんなものはよした方がいいって言うし…で、いろいろ考えてみたんだけど、自分の肩を見てからそれ以外思いつかなくて。安物でごめんなさいね。」
それは、PETでした。
色は私が持っているPETと同じで、型は今の最新機種でした。
「あのね、この人が、日頃感謝している人にお礼ぐらいしてみたらって言ったの。そしたら、貴方が最初に思い浮かんで、。だから、貴女になんかあげようってね。」
「あ…ありがとうございます…。」
年甲斐もなく、むねがじぃんと、熱くなりました。
そして同時に、彼が今日がいつもより何倍も不機嫌だった理由もわかりました。
それはそうでしょう、お嬢様が気まぐれのようなものとはいえ、お嬢様が誰かに気をかけるということを嫌う彼ですから、、、。
「それだけじゃないのよ、電源入れてごらんなさい。」
言われるがまま、電源をいれ、付属のタッチペンで空にウィンドウを描きました(見よう見まねみたいなものです)。
目の前にウィンドウが展開し、、、その一瞬後に私には見慣れない光の揺らぎが画面の中心に現れました。
まだ、それ事態は起動されていなく、まだ輪郭が不明確でしたが、、、。
私は知っていました。
「…これは…。」
「PETはおまけ、メインはそれなの。」
これよこれと、お嬢様は、肩に浮かぶ彼をさして笑いました。
「いったでしょ、自分の肩を見て思いついたって。」
、、、この年になって、、、まさか自分の、、、ナビを持つことになるなんて考えても見ませんでした、、、。
「驚きましたか?」
「ええ、とても。」
私たちは場所がずっとヘリポートというのは何でしたから、もう別荘の中へと移りました。
別荘に入って早々に、お嬢様は着替えてくると、ご自分の部屋へと向かいました(お嬢様は服選びに関しては他人の干渉をひどく嫌われるお方なので、かえって私がいない方がよいのです、まあ、ちゃんと脱ぎ散らかした服は後々ちゃんとします)。
その間に私は、若旦那様とお茶とクお菓子で、お話となりました。
若旦那様のナビは、肩から離れ、ちょこんと、今はテーブルの上に乗っています。
「どうしてお嬢様にこんなことを?」
「いや、あいつもこういうことをさせた方がいいかと思ってさ。」
『あのお嬢様に、世間を教えてあげなくちゃな。』
若旦那様と、ナビはは大きく肩を潜めました。
ほとんど同じタイミングで肩をすくめたので、まるでコメディに出てくるコンビニも見えます。
「にしても、あなたにも喜んでもらってよかったよ」
「…お嬢様、結構たいへんでしたでしょう。」
「ああ。あいつ、慣れない買い物で結構悩んでた。」
『ま、オレの親愛なる相棒だけじゃなくて、オレも巻き込まれて、苦労してたぜ。』
でしょう、、、でも、、、。
「お嬢様、ずいぶん丸くなりましたね。」
「そうだな、前のあいつだったら、悩んだ時点でやめただろうな。」
「ええ。若旦那様の影響が大きいのですね。近い将来が楽しみです。」
『………。』
「ぉごほっ!!」
若旦那様はそこで、何故かむせました。
「ああ。大丈夫ですか若旦那様。熱くはなかったですか?」
「げほ!げほ!!だっだいじょうぶ!!…あなた、たまにさらりと言うな…。」
「はい?」
『…ばあやさん。あんたすっげー天然だな。』
そんなことを言ったつもりはなかったのですか、、、。
ふーと、若旦那様は、息をついて椅子に深く座り直し、私に向き合って広角をあげました。
そして、それが合図だったかのように、若旦那様のナビも私に首を向けました。
「まだ…ナビを起こしてやらないのか?」
「お嬢様が戻ってきたら起こしてあげようと思います。」
『律儀だなぁ、あんた。』
エプロンから真新しいPETを取り出して、改めてじっくりと見直しました。
もう、私のPETからこのPETにデータ移し替えてもらいましたが、ちゃんと、お嬢様と一緒にこのナビと初めてのご挨拶をしたいなぁと思ったのです。
「名前とかは、すでに決まっているのですか?」
「いや、そいつのは貴方がつけてあげるといい。そのナビは市販のノーマルナビじゃないんだ。あいつがあなたのために用意したんだ。」
『あーでもない、こーでもないって。注文つけまくり、そんじょそこらのプログラマーが作ったナビなんてあんたにあげられないって、大分科学省の連中を困らせてたぜ。』
「それは、科学省の皆様にはご迷惑をかけてしまいましたね…でも…失礼なんですが…うれしい…です…。」
お嬢様があの物怖じしない態度で、ニホンの科学省の方々にばしばしと注文をつける姿を簡単に目に思い浮かびました。
くすりと、思わず笑いがこぼれます。
そして、、、そんな過程を経て私のところにきた相手がまだ眠るPETに目を落としました。
まだ見ぬ相手に、思いをはせるとは、、、随分と歳が違いすぎる気がしますが、本当に楽しみです、、、、。
「あ、あのさ。突然で悪いんだけど、ずっと疑問だったんだけどさ。」
「はい。」
「コンツェルンが、なくなってあいつの親父さんの財産全部なくなったんだよな?」
『しかも、あのおっさん結構しでかしたからなぁ…。』
「はい。資産は没収。または、旦那様の裁判のためにも、慰謝料にも、多々使われましたからすでにゼロどころかマイナスになっております。」
「…で、…何でここは何で無事なんだ?」
『そうそう。』
「ここが旦那様のものではないからです。」
「…は…え?」
『じゃ…ここ何なんだよ…。』
若旦那様たちはご存じなかったのでしょうか?
「旦那様の財産でありましたらとうの昔にここは売却されています。」
「………。」
『だ、だったら…。』
「お嬢様のものだからですよ。」
「『………って!!ぇええ!?』」
、、、そんなに驚くことでしょうか?
「会社の名義、旦那様の名義だったら…法律が許しておくはずありません…ここは旦那様からお嬢様への誕生日プレゼントとして出来たもの。まあ、お嬢様が未成年だった頃は別でしたが、お嬢様がちゃんと成人したとき、旦那様はそれまでお嬢様にお与えになったものを全てお嬢様の名義へと代えました。ですから…。」
「あのそれって…。」
『…なんとまぁ…ぎりぎりな…。』
「司法的には何の問題もございませんよ。」
「『…へー…。』」
「まあ。お嬢様名義に代えたものはここだけではありませんけど…。」
「『マジで?」
「マジです。」
そこで話の腰を折るようで失礼ですが、私もお茶を一口いただき。若旦那様のカップにお茶をつぎ足しました。
「ほかにも土地も、株も、、、いくらかは宝石や貴金属へ変えたりしていますが…お嬢様個人の資産は…おおよそですが…人がひ孫代までほどなら余裕に暮らせるほどではないでしょうか…。」
「『………。』」
「ちなみに、ここの建物の維持費、諸々の税金、私のお給金もお嬢様の資産からでていますよ。」
なるほどーと、若旦那様は抱いていた謎が解けたらしく少しばかりすっきりとした顔をし、そして、不思議そうな表情へと顔を変えます。
「…ふつうさ…引かないか?そんな裏事情っぽいのがあったら…。」
『うんうん。』
「いやですね。若旦那様達。」
私は元から旦那様に使えてはいません、、、。それは最初は彼女に誘われるがままここにきましたが、改めてここで働こうと思ったときから私は、旦那様ではなく、、、お嬢様に使えているのです、、、、。
「やましいことがないから、私はこう胸を張ってここでお勤めが出来るのですよ。」
とたとたっ、、、。
「着替え終わったわよー!!」
軽快なヒールの音と、よく響くお声が近づいてきました。
「若旦那様達、お嬢様がいらっしゃいましたよ。もうすぐ、このPETの中の方ともご対面できますね。…?若旦那様達?どうかなさいましたか?」
「強いなぁ…あのお嬢様について行けるだけあるわ…。」
『通りで、あの磁石野郎も連戦連敗しているわけだ…。』
「………はい?」
本当に久しぶりの更新です。
テスラさんの捏造過去話を、ちょろりと書いてみようかなというノリで書いてみました。
まあ、マグネットマンさんの捏造も結構入れてしまいました。
まあ、二十年くらい前ですね、まあ、カーネルさんがいるんですから、一応大会社の社長のナビであるマグネットマンさんがこの時代からいてもおかしくないかぁと、、、(カーネルさんが軍事秘密レベルのナビだということは置いておいて、、、)。
そしてとどめに、チャーリーさんと、ジャイロマンさんも(ただ若旦那様と呼ばせたかっただけです)。
そのおかげで、最後の方がすっごくぐだぐだになってしまいましたけど。
「私」さんは、若くして子供を産んで、夫に先立たれた感じのシングルマザーさんですね。
名前を呼ばせないために、やたら「貴女」を使いまくったので文脈がすごく変ですが、、、。
最後の方は、ばあやさんと呼ばせましたが、、、。
まあ、ばあやさんと呼ばせたかったのもあるのですが、、、。
この人は、いい性格している人です。
テスラさんについていける人は、相当の方じゃないといけないといけないかなって言う感じです。
、、、なんだか、、、天然腹黒みたいな感じになってしまいました、、、。
あ、最後のナビプレゼントは、なんか、テスラさんをわがまま放題に書いたのでそのフォローも込めてです(PETの世代が古いのは何となくですが、、、燃次さんが、たしか、初登場のストリームの時にみんな新しいPETを持っていたのに、前のアクセスのPETを持っていたのがやけに印象的だったので、、、その流用のような形です)。