徒然なる一日
確認。愛用の木刀よし…一張羅の着物良し…相変わらずの天然パーマ良し…って、これはあんまよくねえけど…。
びしっと、鏡の前で何となくポーズをとってみる…なんか…空しいな…。
さてと、今日は何するかね…。
俺は、別に計画も立てないままふらりと、かぶき町の喧噪に身を任せに出た。
「いい天気だな…」
相変わらず、青い空と飛び交う宇宙船が目に映る。
今日は、神楽も新八も居ない。神楽は、定春連れて、町内のガキ共でピクニック(多分、内容はそんなちゃちなもんじゃねえだろうな…だって、主催が本人だもん)。新八は親衛隊の任務とか熱く叫びながら、お通のライブへ(血の雨が降りそうなぐらいの気迫だったなぁ…)。
要は、今日は俺一人で、ヒマって事だ。
…久しぶりだな、本当に一人でぶらつくのは…。
最近は、五月蝿い仕事仲間が当たり前のように絶対一人か一匹はいたから、本当に久しぶりなのだ。
ぼんやりと、することがなく、彷徨う(正確には出来ることがない、遊ぼうにも金がないから…)。
元気そうに駆け回る一人のお子さまが俺にぶつかる。
「おっとっ…」
「てっ!…ごめんなさい…おじいちゃん!」
爺…っ!?素でいったなこんガキ…ぁあ…銀さん…ショック…すっごくショック…!!
「あのなぁ…、俺の何処が爺なの?ボク〜…?」
「かみのけがまっしろだから?うちのじいちゃんもそんないろだよ。」
「これは白じゃない、銀なの…!銀髪なの…分かる?」
神楽とは違う純粋な子供の意見は、別の意味ですッごく傷ついた…。
やっぱなに?この天然パーマのせいか!!チクショウ!!
「あ!そっか、ごめんなさい!おじちゃん!!」
「………」
お兄さんでしょ?ボク…。
「いや、まだ俺そんな歳じゃないから。俺まだお兄さん世代だから…っ!!」
「えぇえ?」
うぅう…子供にとって二十代は…おじちゃんの部類なのか…。
酷く精神的の打ちのめしてくれたクソガキに、お・れ・は・お・に・い・ちゃ・ん・だっと、念を押す。
だが。
「は〜い。おじちゃん!」
「………」
にこにこと、顔いっぱいに笑顔を浮かべて、元気に返事をする。
ねえ…泣いて良い!?…。
もう一度、念を押そうとしたが、クソガキはダチに呼ばれてさっさと言ってしまった。
…あのクソガキには、俺=おじちゃんって、インプットされたかも…。
さすがに、追いかけてまで注意する気は起きず、またふらふらと目的なしでふらつきだした。
その後、少ない持ち金で昼飯を食ったとこは、つまんねえから省略。
「銀時…」
「ん?」
少しふくれた腹をさすりつつ、またブラブラとしていると、突然声をかけられた。
一瞬、誰かと思ったが、いつも通りの坊主ルックのヅラで(顔を別に隠してるわけでもないのに警察はよく見つけられないな)、だが、いつもの連れが珍しくいなかった。
「よお、ズラ。アイツはどうした?」
「ズラじゃない、桂だ。エリザベスは今日、どこかに用事があるそうで、朝早くから出ていった。」
いつものやり取り。はは、いつもズラの後ろの白い背景がないせいかズラがすっきりして見えるぜ。
「何?また、お前ふられたの?ぷっ、だっさ。」
「またとはなんだ、またとは。」
失礼極まりないと言わんばかりに声色が濁る。
苦々しい顔からしてあのことが少しはトラウマになってんのか?やっだね〜、過去に拘る男って。
「そうゆう貴様はいつもの連れはどうした?」
「ん?ピクニックにライブ。」
「随分ヤングでナウな…」
「お前古いよそれ、余裕で。何時の人?凄いねまさしく、生きた化石だ。」
ヅラって、流行が、一、二世代遅れてるんじゃねえか?下手すりゃ三世代ぐらい?
「そうか?」
「………」
銀さん、ときどき、自分の周りの人の頭の中身疑いたくなるね。
「そんなことより、何か面白い事ねえ?ヒマでヒマでしかたねえんだよ。」
「そうだな…この日本に革命の波を起こすのは…どうだ?」
「いやだよ。そんな肉体労働的なの。」
此奴の頭の中には、そう言ったことしかないのかね…。
俺は、がしがしと頭を掻く。
「なんかこう…、糖分がたっぷりとれて、のんびりできて、金が全くかからないみたいなこと…。」
「前の二つを満喫したきゃ、金は絶対にいるぞ。」
だぁかぁらぁ…その金がないんだって事察してくれよ…。
俺の懐にしまわれている、酷く薄い重さすら感じない財布がこの世で最も空しい物に感じるのがこういうときだ。
そういえば、ヅラは特に働いてる見たことねえが…どっから金を仕入れてるんだ?
何が働かざる者食うべからずだ、此処に特に働かずに暮らしてる奴が此処に居るぞ、おい。
「ヅラに訊いた俺が馬鹿だった…」
「ヅラじゃない桂だ、俺に訊く以前に貴様は馬鹿ではないか…」
「失礼な奴だな〜、知ってるか、馬鹿って言う奴が馬鹿なんだよ。馬〜鹿ッツ!」
「なんだと?貴様の方がよほど馬鹿ではないか…!!」
「あぁあ!!馬鹿って言ったな!!お前なんか、馬鹿馬鹿!!!」
「ん…っ!?貴様…!二回も馬鹿といったな…!!この馬鹿馬鹿馬鹿。」
「あぁああ!!てめっ!三回も!!てっめーなんか!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ッ!!!!」
そうして俺達の熱戦は、続いた。
まぁ、決着はというと…、真撰組の多串くんたちが乗り込んできて、曖昧になちまったけど、ゼッテーあのまま続けてたら俺が勝ってたね!!ヅラめ!ざまーみろ!!さすが俺!すっげーぞ俺!!!
…うぅん…空しい…だって、だぁれもつっこんでくんねーんだもん。
考えてみれば、何の罪状もない善良な一般市民である俺って…、逃げる必要なかったんだよね。まぁ…なんつぅか…ノリ?ん〜?分かる?なんかさぁ、人間って追いかけられたら反射的に逃げちまうんだよね〜。
別に銀さん、やましい事してないんだよ!信じてね!!
で、とばっちりうけた可哀想な俺は、ズッタンボロンになっちまって…また腹が減った…。
また、飯を食おうかと思ったが…もう有り金全部会わせても…飯すら食える金額じゃなかったよ…ぅう…帰ろうかな…、やっぱ、神様が今日は家でのんびりしてろって言ってるんだ!うん、そうに違いない。
じゃ、そんでもって、家にUターンだ!!
「よぉ〜!金時じゃないか!久しぶりじゃのぉ〜。」
何で今日は、こうも人に会うんだろう…、なに厄日?神様、僕最近は結構いい子ちゃんにしてるつもりだったんですが…。
つぅか、俺は…。
「俺は銀時〜!!じゃなかったら到底口に出せるタイトルじゃなくなるよ!!!」
「アッハッハッハッハ!すまんのぉ!」
相変わらずの、もじゃ毛の中に手を突っ込んで乱雑に頭を掻いている馬鹿毛玉だった。
「まぁ、細かいことは気にせんでいいじゃろ!」
「全然細かくねーんだよ!!!」
アッハッハッハ〜と、絵に描いたような馬鹿面で笑う。
また此奴には、思考があるのか疑わしい…。
此奴の脳味噌に回るはずの養分が、このもじゃもじゃの毛に言ったんじゃねえか?だからこんなに毛髪量が異常なんだな…。
「今日は俺は家で眠りなさいって、神様からお告げが来たんだよ。だから早く帰らなきゃ行けないわけ、じゃないと今日厄日だから。」
「アッハッハッハッハ〜!何妙なこといっとんじゃ?」
やべ、此奴に言われちゃったよ…、俺人間として終わったか?
「妙なのはお前だよ、で?地球に何しに帰ってきたんだ?」
「しれたことじゃき、つかの間のバカンスじゃ、バカンス。」
年から年中、頭ん中バカンスなくせに…。
此奴一応…社長だったよな?こんな奴が社長でよく会社が持つな〜?やっぱ、陸奥だったけ?彼奴が実質上は切り盛りしてるんだろう。
「暇だな、お前。」
「ん〜?そうゆう金時も暇そうじゃないか〜?」
「だから、金時じゃないっての!!あのな〜、貧乏暇なしって言葉知ってるか?暇そうに見えて俺は暇じゃないんだ。貧乏だから。」
ホントは今も暇だけど…。
「なんかようわからんが、暇なんじゃな!」
全然わかってねぇええ!!!!話が通じねぇえ!!いや!分かってる!?いや、分かってない!?
「おまえなぁあ!!」
「つぅことで、わしゃ、そこら辺ぶらついとるわ〜!!」
全くかみ合わない会話で、此奴の方がよっぽど天人やえいりあんじゃねえかと、疑わしい奴は、唐突に会話を終了させどっかにいった。
たっく…、ほんとうに頭の中カラだ。
馬鹿が過ぎ去ったと、俺は肩を落として。
今日一日で迷惑な代名詞の二人に会うなんて…本当に今日は厄日だ…。
何故か、頭が痛くなってきた。
おおよそ見当は付くけどね…。
懐寂しい俺は、家に直行する道で、目に入った新装開店のパチンコ屋に入った。
ふ…、金がないって?玉なんて拾えばタダで出来るんだよ…、せこいと言われようがお店の人に迷惑だと言われようが俺はやるね。元でタダだから損することはないね!銀さんあったまいい!!
秘技!パチンコするとき金がなかったら床にごろごろ転がってる玉使用!!!
…これ犯罪?これってさ管理人による、二次創作だけど、いいのかなぁ…。
だが、秘技は破れた…。だって…お店のごっついガードマンさんに殺されかかったもん…。
うぅう…。悪いことは出来ないんだね…お天道様が見ている〜…。
ごめんなさい…本当にごめんなさい!!!!ガードマンのお兄さんに力一杯握られて、青あざが付いた肩が痛い…。
つか!管理人のせいじゃねえか!!何の恨みがあるんだよ!!!
管理人のバァアカァア!!
俺は、飯も買えなかった乏しい金で玉を買った。
ヤバイ…今月分の俺のお小遣いが、ぱあになった。
何故か熱い目頭を押さえて、台に座った。
「よお。お前また負けに来たのか?」
「そうゆうアンタもか?長谷川さん。」
よく、このグラサン愛用人とはこうゆう場所で会う。
お互い考えることが一緒だって事だな。
やっぱ、楽して稼ぎたいのは誰だって同じだな。
「おお!今日は調子良いよ!!」
「マジ!?俺もいっちょ稼ぐぜ!!」
このおっさんが調子良いんだったら、よっしゃあ!!今日こそはぁああ!!
「………………………」
「………………………」
「よ…よお…どうした顔が真っ青だぜ…?」
「はは…そう言うお前は声が震えてるぞ?」
お互い絶望に満ちた顔をしている。何も言わなくても分かるよね…。
「これから…どうする?」
「帰る…ぜってぇ…もう迷うことなくうちに帰るよ…」
今日は厄日なんだ!!だから何しても報われないんだ!!!間違えないね!!
うう、途中まで結構良い線行ってたんだけどな…。
つきまくってるから…もっともっとと、調子に乗ったせいか…。
茜色から薄紫色に染まりだした空を仰いだ。
あれ?何で?視界が潤んできたよ…。
ああ、そろそろ、神楽も新八も戻ってくるな…。マジで帰ろう…。
ほてほてと、何故か力が入らない足で家路に着くことにした。
ああ、ちょうど帰宅ラッシュだからな、みんな足早だこと。
「はなせぇえ!!はなせよぉお!!」
「んん?」
子供特有の甲高い声が、帰宅ラッシュで賑わう町中に五月蝿く響いた。
「はなせよ!!ぼくがなにをしたんだよぉ!!」
「うるせえ!!俺の財布を取っただろが!!!」
「しらないよぉ!!!」
見れば、馬鹿でかいゴキブリを擬人化したような絶対に婦女子方々が直視するに耐えない天人三人組が、子供を宙づりにしていた。
その子供には、見覚えがあった。朝、俺は爺呼ばわりしたガキだった。
「ざけんじゃねえよ!!!てめえとすれ違ったら俺の財布がなくなってたんだよ!!なぁ?」
ガキを掴んでいるリーダー格だろう天人は、後ろでニタニタとねっとりとした笑みを浮かべて、同じように後ろで笑う其奴より一回り小さい二匹に同意を求めた。
沈みかけた夕日が、三匹を照らし、脂っこい光が輝いて実に気色悪い。
おえっ…、夕飯前に、絶対見たくないもんだぜ…(それを夕飯前に見た俺はついてない…)。
「ぼくはそんなことしないよぉ…!」
ガキはもう半泣きだ、おぉおい…警察はどうした?警察は?
…無理か…。ある意味天人のこういった行為って黙認状態だもんなぁ。真選組の破天荒な奴らは別として…。
「このガキャァ!財布盗ってねえって言いぬくつもりだな!!」
「ほんとぉにしらないよぉ…!!」
………………。
「やだ…警察は何してるのかしら…」
「可哀想に…もう間に合わないな…」
「助けられないよな…」
「ついてなかったわねぇ…あの子…」
ホント…付いてないなあいつ…。
「さぁあてとぉお…たぁぷっり可愛がってやるか。」
「たすけてよぉ…」
「誰も助けてくりゃ…「ちょっと良いですかぁ?」
ぽんっと、俺より高い肩を叩いた。
うえ…なんか…ギっとってした…。後でしっかり手洗わなきゃ…。
「あん?だれだおめぇ?」
「あ…!あさのおじちゃん…!?」
こういう状況でも、俺をおじちゃん扱いかよ…。素で酷いやつだね…こいつ…。
「見ての通りの地球人のお・兄・ちゃ・んで〜す。」
お兄ちゃんの部分を強調して、自己紹介!けっして俺はお・じ・ちゃ・んじゃねえから。
「ああ、このガキの保護者かい?宅のガキがよぉ…」
「いいえ、僕は独身ですよぉ〜。そんなガキンチョ知りません。」
「んだぁ?だったらとっとと消え失せ…
ごぎゃっ。ぽす。 ずどっご。
ごがぁ!?」
『兄貴ィイ〜!?』
最初の音は、デカゴキブリが俺の一刀でぶっ飛んだ音、次ののんびりした音は俺がそのデカゴキブリの手から放れたガキンチョを受け止める音、最後の少し間をおいた音はデカゴキブリがしばらく空中にとどまって地面に叩き付けられた音。
要約すれば、俺がデカゴキブリを木刀でぶっ飛ばした。ということだ。
「てめぇ…何を…」
「ああ、すませんね。お手手が滑ったんですよ、ホント。」
俺に撃たれたおそらく側頭部に当たるだろう部分を抑えていたが、しゃんっと立ち上がる。
結構強く打ったつもりだったんだが…脳震盪すら起こしていない様子だ、やっぱ生命力もゴキブリ並みなのか?
ぎろりと、決して大きくない目玉をこれ以上不可能なほど見開いて睨み付ける。そして、隠し持っていたのか、俺にはあまり見覚えのない型の細長い不思議な得物を構えた。
典型的な子悪党な見かけ倒しの雑魚キャラかと思ったら、以外にも構えはしっかりとしている。
うっわぁ…迫力〜…殺る気満々だぜ…。
「おじちゃ…」
俺の腕の中でガキが涙と鼻水で汚くなった顔を上げた。
おい、またおじちゃんって言おうとしたな?
「ちょっと、降りてなさい。僕。」
「うん…」
はぁ…かったりぃ…。
「今は油断したが…舐めたまねしやがって…黙って従ってりゃいいものを…この!劣等種の地球人がぁあ!!!」
「兄貴にかかれば、お前らみたいな下等生物!けっちょんけっちょんだ!!」
「兄貴!!やっちゃってください!!」
おう、おう、お決まり的な台詞は実に月並み。しかも、腰巾着が二匹。凄い、古典的なベタベタな悪党だよ。俺はこんなべたな奴、天然記念物並みに珍しいと思う。
台詞の方、もう少し、捻ってくれよなぁ…。銀さん、色んな人達のバリエーション豊かすぎる台詞聴いてきたから、今の台詞がバーゲンセールの品物なみに安っぽく聞こえるよ〜…。
そして、金切り声のような咆哮を上げて、巨体に似合わぬスピードで斬りかかってきた。どうやら、このデカゴキブリは攻撃は最大の防御也って感覚の戦法らしい。
「とっ。」
戦闘開始か…。
デカゴキブリの、斬ると言うより衝くような剣舞だ。
よく見れば、斬ることにはあまり向かない武器のようだ。
どちらかといえば、薙刀や槍術に近い。
でもなぁ…。
深く衝くために腕を伸ばした腕を脇に挟む。
捕らえたと思った腕は、脂を塗ったくったように滑りあっさり引き抜かれる。
あ〜あ…。
実際体表は脂で包まれているのだろう、ギトギトとした脇が実に不快だ。ああ…服が汚れちまった。脂のシミってとれにくいんだよな…。
相手方も不快そうに挟まれた腕を振る、そして、得物を再び構え直して、今度は浅く衝く。
腕は掴めず、切っ先が僅かに俺の髪を散らした。
「ああっ!おじちゃん!!」
おいおい、心配してくれるのはちょっぴりアリンコぐらい嬉しいけど…。
「俺は…!お兄ちゃんだぁあぁああ!!」
俺は、浅く衝いたとはいえ引っ込める一瞬の隙に、体を伏せ、振るい上げるように、刀とは違う細長い刀身をへし折った。
「なっ…!?」
跳躍。信じられないとばかりに、声を上げる面にかかと落とし。
その衝撃によろついた体に、ローキック。
完全にバランスを崩し、もう柄の部分しかない剣を握っていた手がゆるんだ。
小手を木刀で打つ、いい音がして剣が宙に舞った。
そのまま、半分地面に付きかけた体に体重をかけた、突きを鳩尾に喰らわせた。
その勢いが強かったのか、デカゴキブリの巨体はワンバウンドしてから、止まった。
「ごぉ…ぁっ…!?」
「はい終了〜。」
構えは良かったんだが、我流だろうの戟は荒すぎて読みやすかった。こりゃ、新八でも勝てるわ。やっぱり、見かけ倒しだったよう。
今度こそ、脳震盪が起きたのか、デカゴキブリは焦点が定まらないようで実に頼りない。
どうしよう…、何か木刀になんか嫌なテカリが付いた…、やだなぁ…。今木刀買お金ねえんだよなぁ…。
しばらく、蝦蟇の脂宜しく、ゴキブリの油が付いた木刀が俺の愛刀になるのか…うう…俺かわいそ…。
そうして、つかつかと、近づいた俺にデカゴキブリが一瞬身構えた、おぉ、古典的に、お命だけはぁ〜、とか言わないわけ?
お前の腰巾着。チビゴキブリAと、チビゴキブリBは、今にも、覚えてろよ〜、って言いそうな雰囲気だよ、リーダーなら空気読もうよ。
近づく俺に悪態を付こうするデカゴキブリの懐に手を突っ込んだ。
うげぇえ!?なんてきっしょくわるい感触!!言うならば、ギトギトとした硬い穴の中に手を突っ込んだ感触?いや、もっと気持ち悪いね!言い表わせん!!
そして。
「ほら、財布ありましたよ。いけませんね〜、ろくに確認もせず人を疑うのは〜。」
「くっ…」
デカゴキブリの懐から取り出した、一見すれば高そうな革の財布、けど、ギトギトしてる…。
俺、帰ったら絶対に風呂はいんないとやばいね。全身ばい菌だらけ、いや、その以前にゴキブリを素手で触った俺ってなかなかの猛者じゃね?
たまにいるよね、スリッパとか、新聞とか使わず、素手や素足で潰す人。
あれは、尊敬するべきか?いや、あれは女の子が絶対に嫌悪するね。年頃の娘さんが、むさ苦しい中年のお父さんを嫌うぐらい嫌悪される。全国の俺ってゴキブリをさわれるんだぜと自慢するあほな奴、女の子にもてないよ。
「この…!恥かかせやがってぇええぇぇえええ!!!!」
「お。」
一瞬、そう言うことを考えてたら、デカゴキブリのパンチを食らいそうになった。
やっぱ、言いがかりを付けて地球人いじめをしたかっただけか。
ガキ大将ヨロシクって、精神だな。
そして懲りないタイプだな、ちっさいころお母さんに叱られても何度もやるタイプだったんだな。
このデカゴキブリのお母さんはさぞかし手がかかっただろうに…。
ごきぃごぉ。ずんっ。
俺は、容赦なく脳天を木刀で叩き、デカゴキブリを地に沈めた。白目向いて、泡ふいてるからこりゃ完璧に落ちたな。
後ろで、チビゴキブリA、Bは、なっさけない悲鳴を上げてどっかに逃げていった。
お決まり、お決まり。
たっく…。
「お…!おじちゃぁ〜ん!!…っあ。」
がきんちょが、俺に駆け寄ってきてそのまま抱きつくかと思ったら寸前のトコで止まった
「なに?」
「あの…えっと…おじちゃん…脂まみれ…で…その…」
ガキンチョの言いたいことはよく解った。俺は改めて、自分の着物を見ると、あのゴキブリ脂はすぐさま変色するらしく、実に薄汚い形容しがたい生理的に近づきたくない色へと変わっていた。
自分が汚ッツ!?ううっわ!?マジ汚ッツ!?
自己嫌悪で、落ち込んだ俺に。
「…けど…おじちゃん…ほんとうにありがと…」
…………まだ言うか…………。
「…………別にお礼は良い…そのかわりよぉ…」
「え?」
「だぁかぁらぁ…俺は…っつ!!!お兄ちゃんだっつてんだろがぁあああッツ!!!!」
今現在、俺の残っていた肺活量を全てフル活用し、俺の若さを訴えかけた。
まじ、勘弁してくれよ…。
「ただいまぁ〜…。」
「あ、遅かったですね。銀さん。」
「銀ちゃん!何処行ってたアルか?」
漸く、家に帰ってきた。
新八はなにやら、名簿のような物を整理していて、神楽は、…なんで猪が家の中に?ねえ?何処行ってきたんだよ!?定春はその後ろで、飯を食っていた。
「って!何ですか!!アンタ!そのカッコ!!まじ汚ァア!!!」
「銀ちゃん!!反抗期アルかぁ!?」
「……………」
俺は反論する気力もなく、風呂に直行した。
もう…げっそりだ…、あん後、あの騒動で真選組が来て、面倒事に巻き込まれるのが嫌で全力疾走で…ああ…思い出したくもない…。
あのガキは、最後までおじちゃんだった…。
そんな俺老けて見えるかな…?
風呂から上がって、もうべたぁあと、張り付くようにソファにぶっ倒れた。
ふぁ…もうこのまま寝ようかなぁ…。
「銀さん、今日、一体何したんですか?」
「早く白状したほうが身のためアル。このままじゃ罪が重くなるだけヨ。」
眠い…、もう眼があかん…。瞼の上で相撲取りがステップダンスをしているようだ〜…。
あ、ほれほれ、眠りの世界にレッツゴー。
「特に…何も…ゴキブリ退治しただけ…じゃ…寝るわ…」
『はぁ?』
そこでぷっつんと、意識がとぎれた。
疲れる一日だったなぁ…。