人は見かけに寄らず 3
「…で、あるから我が社が開発した画期的なこの改良版のプログラムを使えば、情報処理能力が従来の物と比べて、約2.5倍ほど上がる上に…」
あー…あいつら…へましてないよな…ばれたらどうしよう…やっぱりあいつらなんかに頼まなきゃ良かったな…。
「…尚かつ、他者の類似プログラムと比べても低コストで開発が進められ、無人化が更に出来、大幅人件費を…」
マジであいつら…なんでもくっちゃべりそうだ…そうしたら…。
「…社長…社長…!」
「ん?」
三太夫に耳元で静かながら強い口調で呼ばれて、ぼおっとしていたアタシは現実に戻された。
今は、会議中。ある会社がなんだか自社で開発した情報処理のプログラムをウチに売り込みに来たらしいが…。
「訊いてましたか?今の話?」
「一応は。」
アタシは、あいつらが馬鹿なことやってないかと、考えていたけど…。
「…で、如何でしょうか?我が社にプログラムは?」
得意げに、其奴は説明を終えて胸を張っている、確実に買い取ってくれるかと思ったのだろう。
「クズだね。」
アタシは、目も合わさず言い捨ててやる。三太夫が頭を押さえてため息をつく(いつものこと)。
「な、何故…」
「素人が訊けば、確かに良いモンで改良版かも知れないな。だが、理屈を立てて訊けば改良どころか超が付くほどの改悪版だ。」
「何処が…」
「ふざけんじゃねえ。」
アタシは、資料に目を通す。たく、ろくな物が最近売り込まれねえな。
「理由は五つ。一つ、このプログラム、普通のコンピューターじゃ容量が足らん。このプログラムに耐えきれる特別製を作る時点でマイナス。二つ、情報処理能力に問題はないが、その消費するエネルギーが馬鹿にならん、これもマイナス。三つ、そんな微々たる利益で、その損失を取り返すまで時間がかかりすぎる、その隙に充分新しいプログラムが作れるだろうからマイナス。四つ、これは理由じゃないかもしれんが、売り込むんだったらその容量に耐えきれる物もセットにしろ、買う側からすれば二度手間これでマイナス。最後、我が社ではそのプログラムを越える物を既に使用してるから。」
男は言い返す理由を必死に考え出した、だが再度口を開く前に、アタシは会議室から出ることにした、そして戸口にいるガードマンに。
「つまみ出せ。」
一言命令した。
会議室を出て、すぐ後に後ろで、さっきの男が、助けてくださいとか、この取引をしてくださらなかったら我が社は倒産だとか言ってたけど、知るか。
商いに情はいらない、損得の問題、相手を選んでから売りこめっつーの、頭が悪くて金のない奴だな。
「相変わらず…容赦がないですね…社長…」
三太夫が、次の予定を確かめながら呟くように言う、普通からすれば貶し言葉にはいるかも知れないが、アタシにとっては、お褒めの言葉。
「金のない奴は生きる資格はない」
移動中の車内の中で、次の会議の資料に目を通していると、また携帯からアイツからかかってきた。
アタシは、頭痛がしたが運転する三太夫に無言目で指図する、三太夫は後ろに座るあたしとの間に完全防音のための壁を降ろす、これで聞こえない。
「もしもし?」
『亀よ〜亀さんよ〜か?は〜い、元気〜?』
ぶつ。
切ってやる。何が亀さんだぁあ!!なめとんのかぁあああ!!!やっぱしこいつらとの契約うち切ってやるぅうううう!!!!
またかかってくる。
『何すんだよ!!ちょっと小粋なギャグをきかせただけでしょッツ!!切ることはないでしょうが!!切ることは!!もうこれだから冗談の通じないお子さまは!!!』
「な〜にが小粋なギャグか!!!おめーのセンスゼロだよゼロ!!!いきなり人を不快MAXにさせることいってんじゃねぇええ!!!」
アタシは、肩を落として人選を間違ったと思った。やっぱり怪しまれるかもしれんと思って、ろくに下調べもせずに適当に目に入ったあそこに入ったのが不味かった…(だってああいう店のほうが荒事にはむくと思ったから)。
あ〜あ、こうゆうのは商いとは違ってどうも勝手が違うな〜。
でも、今更引くわけにはいかんからな〜。
「で、ターゲットのほうは?」
『ん〜とな、何かさっきまで社長室にいたんだが、会議とかで、会社から出たぜ。俺はさすがに追えなかったが、神楽が其奴を追いかけてる、なんかあったら報告が来るだろうな』
「あっそ…」
あの天人…多分夜兎の奴か…まあ、大丈夫だろうな。
お願いだがら、今は見つからないでくれよ…。
『なあ、一つ訊いても良いか?』
「答えられる物なら、良い。」
アタシは、どうせ金の算段かと思ったが。
『俺達にアイツを付けさせてる理由は…昨日の理由一つか?』
「……ああ、そうだ、それ以外に何があるんだ?」
『俺には…それだけとは思えなかったんだが?』
「五月蝿いな、あんたらはあたしの依頼だけをやってろ!余計な詮索をするな!!もう切る!アタシはこう見えても忙しいんだ!!
」
いそいで携帯を切った。
心臓が面白いぐらい従順に反応してる。まさか気付かれた?いや、そんなことはないはず…、あの天然パーマヤロウ…ただのろくでなしじゃねえのか?
何処か三太夫に似たものを感じた。