人は見かけに寄らず 2
「社長。」
私の一応右腕を勤めてる三太夫が珍しく、鉄仮面な顔を崩している。
「ん?何だ?」
アタシは、マイPCで株取引をのんきに眺めていた(あ、株下がった…ざっと五億損したな…まあ、次の取引で取り返す)。
「近頃、社長が単身でいかがわしい店になにやら依頼を頼んでいるとの噂が…」
「しらん、そんな根も葉もない噂、誰が流した?貴様の不始末だ。どうにかしろ。」
はぁ、噂って恐ろしいね…。もうばれてんの?
「事実、社長は最近一人で何処に行かれているのですか?護衛も付けずに…」
「黙れ、余計な詮索をするとは貴様も物好きになったな。」
三太夫は妙なところで勘繰る…普段は何しようが何も言わないくせに(あ、今此処の株買い占めとこ)。
「何を考えてらっしゃるんですか?あなたは時に己のみを省みぬ節が…」
「別に…アタシの事を考えることより、今から噂をねじ伏せてこい、それでも噂を流す奴はクビにしろ。」
三太夫は、目も合わさぬアタシを何とも言えぬ目で見ると、社長室から出た。
何であんな目で見るかね、馬鹿らしい…、商いに情は無用だって社訓にでかでかと銘打ってるのに…仮にも社長参謀が規則を破るなど…上に立つもの下に示しがつかんだろうに…。
あ、損失、取り返せた。
袂に入れてある私用のケータイがそのタイミングを見計らったように、かかってきた。
着信先は…あいつらか…天然パーマヤロウ…(携帯もアタシの連絡用に渡しといたから)。
「もしもし?」
『本日も美声をお届けです。ので、料金かさましで…』
「存在を原子単位ですら残さず消え失せろ。金引くぞ?」
『ごめんなさい、マジごめんなさい。僕ぅ、いま文無し何です〜』
「…アタシが昨日やった金は?」
『全て、僕らのお腹の中です。』
…金を普段もたねえ奴が急に大金を持つと、それでいい気になって金を思いっきり使う、こいつらも同じクチか…、なんつーか、単純馬鹿を絵に描いた連中だな…。
「で、今赤字?」
『なめんなよッツ!!!今は唯の赤字じゃなくて超紅の沖縄の首里城がチョコレート喰いまくって鼻血ブーになったくらいの赤字だよッツ!!!!!!』
「それはえばってゆーことじゃねえよ!!不名誉な勲章をでかでかと公表してるぞッツ!!!ハズイとか思えよッツ!!!!」
全言撤回、絵にも描けないぐらいの馬鹿だ!こいつら、金を使い方ろくにしらねえな!?こんないっぱいあるんだからじゃんじゃん使っちゃえ的思考かぁあ!!!それで使いすぎてマイナスになったんだな!?誰かぁあ!こいつらに金の使い方のお勉強教えてぇええ!!!
みしみしと、携帯が軋むが気にせず話を進める。
「で、どんな状況?」
『ああ、社長室で何か、自分よりでっけー天人に、えらそうにお説教してるみてーだ。』
「ふ〜んあっそ、で?何で社長室が見えるの?」
アイツの会社のビルは、「でっかい建物大集GO!!!」なんて、意味のわかんねえ番組で、ベストスリーに入るぐらいでかいビルだったような…。
『えーと、今社長室で、お掃除してるからです。』
「ふーんそ、お掃除…って、アンタ何してんだよぉおッツ!!!」
秘密に、気付かれず内密にってしつこいぐらい念押ししただろうがぁあ!!!あの馬鹿がぁああ!!!堂々と探ってんじゃねぇえええ!!!!!
『え?だからお掃除だって』
「いっへんききゃあ分かるんだよこのクズ!!!秘密にって言っただろうがあぁああ!!!!おめーの頭は三歩歩きゃ忘れる鶏さんかぁああ!!!!」
『誰が鶏さんヘヤーかッツ!!!俺の髪は天然パーマだよ確かに!!!人の欠点を言うなんて最低だってガッコーの先生に習わなかったの!!いけない子ッツ!!!』
「アンタに言われたきゃねーんだよ!!!それにアタシが言ったのはそうゆう意味じゃねーよ!!この変態天然パーマがぁあッツ!!!それになってそんなトコにいるんだッツ!!!!」
『アルバイトだよ!アルバイト!!今ツケがマジで溜まりすぎてやっべーから!!!』
「自業自得かいッツ!!!」
仕事を二つ掛け持ちできるほどあいつらって優秀なのかぁああ!??
携帯を切ってやろうかと思ったが、深く深く深呼吸をして気分を落ち着かせる。
落ち着けアタシ…こいつみたいな奴にいちいちはリアクションとってたら身がもたん…。
「はぁ…もういいから、テキトーにがんばっといて…」
それだけ言って、アタシはアイツの返答を持たず一方的に切った。
しばらく沈黙が流れた。
此処は完全防音してあるから外の音なんて一切聞こえない、だからPCのぶーんといった機動音しかしない。
切ったばかりの携帯を袂に入れ直す、ぼおとしながら、そしてまた、株取引を始める。
しかし…。
「あの馬鹿共…へましねぇえよな…」
そのことばかり考えていたせいか、今日の株取引は…マイナスだった…。