人は見かけに寄らず 1
ドンドン。バンバン。
「すいまーん、いますか〜?」
アタシは、歌舞伎町にある、スナック お登勢の二階にある、多少どころかもの凄くいかがわしい、万事屋 銀ちゃんなんてかかれたとこの戸を叩いていた。
普段なら、アタシはこんな信用性の欠片もないトコになんて尋ねない。事は急いでいるのだ、合法的な公的機関に頼めない、それに、こんな荒事はこういったトコの方が良い。
しかし、いくら叩いても、叩いても、叩いても、返事はない。
「留守か?」
外のトコに行こうと、アタシは、苛立ちついでに戸を軽く蹴飛ばしてやった。
がこん。ばぁん。
「へ?」
最初の音は蹴った戸が枠から外れた音、次の音はその戸が地面に叩き付けられた後。早い話人様の家の戸を蹴り壊したわけだ。
「え っ!!壊れた!?壊れた!?マジ!マジ!?どーゆう構造してんのこれ!?きゃっ !!なんてボロいんだよ!?何処の家の戸に小突いただけで破損する戸があるんだよ!?マジでボロ屋じゃん此処!!!保険入ってんの!?アタシ知らないから!!!!」
此処の住人が戻られたらたまったもんじゃない!!!それに今騒動を起こしてるヒマはないんだ!!
そう思い、アタシは目撃者が誰もいないことを素早く確認してとっととトンズラを決め込むことにした。だってアタシのせいじゃないもん!!!みんな此処の家がボロいせーだぁあッツ!!!
しかし。
「こらぁあッツ!!こんクソガキ何処に行くんだよ!!!この器物破損者!!!人ん家のもん壊したら素直に謝りなさいってお母さんに教えて貰わなかったのッツ!!!!なんていけない子!!!お尻ペンペンされてーの!!!」
「ぎゃっ !!!!!!」
踵を返したそのとたん、壊した戸こら伸びてきた手に着物の袖を掴まれた!?
居留守決め込んでたのかよ!?!?最低だな!?おいッツ!!!
「は な せ ッツ!!変態!不審者!!掏摸!!!痴漢!!!!お巡りさ ん!!!た す け てッツ!!!!!」
「お巡りさ ん違うから!!!!この子が悪いからね!!!犯り逃げしようとしてるんだからね!!!!現行犯逮捕して ッツ!!!」
「多大な誤解招くような発言してんじゃねぇええ!!!!アタシは掘るがわじゃねぞッツ!!!!!どっちかと言えば掘られる側だッツ!!!!あ!いじめる方もいいかもッツ!!!!!」
「おめーの方も、卑猥な発言大声でしてんじゃねーかッツ!!!!!!これだから最近の子は!!!!!おっそろし ッツ!!!」
「玄関で止めろ ッツ!!!まるで修羅場じゃね かッツ!!!昼ドラ的展開なら午後一時からしろ ッツ!!!!」
「そうアル!!銀ちゃんいつからロリコンの趣味が出来たアルか !!!!」
「なに!?この人ロリコン!?!?いや ッツ!!処女が ッツ!!!貞操の危機が ッツ!!!お嫁に行けなくなる ッツ!?!?!」
「何にもしね よッツ!!!!」
こんな馬鹿騒ぎを、小一時間やっていた。
で。
「「「依頼?」」」
「そ、依頼。」
下のスナックのママであるババァ…じゃなくて、お登勢さんが、止めてくれて、アタシは漸く話の場に付くことが出来た。
「に来たのに、何で居留守決め込んでたの?あんたらが居留守しなきゃ、戸を壊すことも、あんな大声でクソ恥ずかしい会話することなかったんだよ。変態さん。」
「…取り合えず、変態を頭からはずせ。オレはノーマルだから、アブノーマルなのは新八だから。」
「おいっつ!!誰がアブノーマルじゃこらぁあ!!」
「新八は、ヲタクだからヨ。ヲタクは美少女フィギュアでハァハァいってればヨロシ。」
のんきに、巨大犬の定春を撫でながら火に油。
「誰が、ハァハァいうかボケェエッツ!!!ヲタクをみんなそうゆう風に見るんじゃねえ!!!ヲタク差別だよ!!!ヲタクだからこそ女の子を守ります的な同盟もあるんだよッツ!!!」
「すいません、激しく脱線した話を戻して…。」
ここに来て僅かだが、はっきりと分かった。
…………この連中は阿呆だ。
まあ、阿呆なら阿呆ほど良い、利用しやすいし。
「で、依頼内容の前に、本当に何で居留守決め込んでたの?」
「面倒だったから…!」
「死ね、変態。」
「だから、変態じゃないから。俺にはちゃんと、坂田銀時様っつー立派な名前があんだよ。」
「名前が立派すぎて似合わねーよ。あんたなんて変態で充分。変態、変態、変態。」
「なんて失礼なガキだ…!やっぱ依頼受けねえ…!!戸の修理代だけ払ってとっとと帰れ、今、珍しく結構懐が暖まってるんだよ、お前なんぞの依頼一つ蹴っても今は大丈夫。家賃も溜まってたぶんも昨日すっきりしたし。」
なるほど…。今は余裕だから依頼なんぞ承けるのなんか馬鹿らしかったてことか。
アタシは、かちんときた。
で、ばさりと、アタシは懐の財布から適当に数枚札を取り出し、机を挟んだあいつらのほうに投げた。
「銀ちゃーん!!!これお金アルよッツ!!」
「マジでかー!!ホンモンか!?」
「あー!!三万!三万も!!!」
アタシにとって三万なんてどうでも良い値段だ。こんなボロ屋に住んでるだけあってこいつら貧乏なんだな。
お金を持ってわいわい騒ぐ三人、よし乗ってきたな。
「アタシの依頼を受けてくれるんだったら、この十倍…いや、百倍出しても良い。」
財布の札入れの厚さをさりげなく見せてやる(百万円の札束がだいたい一センチ、アタシの財布はだいたい二センチぐらいの厚みがある。だいたいいくらぐらいか分かる?アタシはだいたいこのぐらいいつも持ち歩いているし、三百万は痛くも痒くもない)。
三人はひそひそと会話しだした(聞こえてるけど)。
「…銀さん…神楽ちゃん…あの子の着物よく見て下さいよ…」
「「…ん…」」
「…あの生地の光沢…絹ですよ…それに…着物の刺繍だって…金刺繍ですよ…」
「…マジかよ…!!」
「…金持ちアルか?…」
「…うっわ〜…人は見かけに寄らないな…」
「…依頼料たんまりアルよ…銀ちゃん…」
で、くるりとこっちをそろってみると。
「あ、あの…受けてもいっかな〜…僕〜今〜モ〜レツに仕事がしたくなってきちゃった〜」
金に釣られる奴ら、何奴も金にはがめついな…、やっぱ世の中金が一番だな。
「で、依頼内容は?」
「殺し。」
アタシに問うたメガネヲタクは目を見開いて驚いた。
勿論、変態も、チャイナ娘も。
「な〜んてね。冗談だ、冗談。そんな物騒な依頼だったら外のつてがあるから其処に頼むよ。」
三人の更に驚いた顔を無視して、財布から写真を取り出す。
「こいつを、三日で良い。付けていてほしい」
「「「ん〜?」」」
三人は同時にアタシが渡した写真をのぞき込む。その写真に写っていたのは天人。
角に鋭く尖った耳に灰色の肌以外は地球人に近い容姿、年頃はおじさま世代だが、顔は、若い女性が黄色い声を上げそうな精悍な面構えだ。
「なに?お前こいつの追っかけ何か?お前見かけに寄らずミーハーなの?」
「ちげえよ、変態。金払わねえぞ」
「すいません。だけど変態止めて下さい」
ふうと、ため息をついて。
「そいつアタシのトコのお得意さまなの。けどさぁ、最近素性が怪しくてね、付き合いがあるうちとしては、お得意さまがなんかやってたら取引先のウチも怪しまれるんだよ。だからいっそのこと手を切ろうとしてるんだけど、確かな確証ないし、もし何もなくて手を切っちゃったらかなり損害を被るんだよ、だからあんた達に素性を調べて貰いたいの。何もなかったらそれで良いから。短すぎても長すぎても困るから三日。」
もっともらしいことを並べる、三人はなんだか納得してくれたみたいだけど、全く違う、本当ならこんな奴らに頼まなくても、ウチの会社にはもっと優秀なブレイン集団がいる。形だけで良い、こいつを見張って貰えばいい。
隠れ蓑になってもらえればいい…そのために危険を冒して護衛なしで依頼してんだ。
要は何処でも良い。
「何、お前会社かなんかもってんの?」
「なんかじゃなくてもってんだよ、会社。」
「本当アルか!?私と歳あんまり変わらないヨ!?」
「会社を継ぐのに法はないからな」
「へえ、凄いですねこの子。」
「そうだよ、感心しているヒマがあったらお前らも働いたら?此処だからボロいんだよ。そのうち倒壊した家の下敷きになって潰れて死ね。」
「うっせーな、結構此処改築、修復かさねてんだよ。結構しぶとくしぶとく今まで建ってんだから、これからも、踏まれても踏まれても踏ん張る雑草のように、建ってるんだよ。」
「なんだよそれ、だったら除草剤まいたろか?ああ、あんたらもいるから殺虫剤もいるな、殺虫剤。駆除会社呼んだろか?」
「まあ、まあ、二人とも落ち着いてくださいよ」
新八が冷静に二人の争いを止めようとしても。
「「黙れヲタクメガネ」」
「てめーらぁあッツ!!いい加減にしろよぉおッツ!!!」
「見事に言い当てられて、新八が切れたね。」
「そーゆう神楽ちゃんだって酢昆布ヲタクじゃねーかぁあッツ!!!」
「なにいうネッツ!!!」
振り出しに戻り。またまた小一時間やっていた。
まあ、一応は引き受けてくれるそうだ(どうでも良いが)。
「じゃあ、アタシ帰るから。ほれ戸の修理金。受け取れ貧乏。」
帰り際に、札を十枚ほど投げてよこした。
振り返りはしなかったが、後ろで、おらぁあ!とか、よこせぇえ!とか、ボカスカやる音がした。
騒がしい連中だ…。
プライドないのか!?