仲良きことは良きかな
「…で、システムの急遽メンテナンスが決まった。恐らく今日一日はかかるだろうから、各自休養をとるなり、トレーニングにでも励んでいてくれ。」
そう、口早に言うと、ブルースはしゅんっと、消えるように別のサーバーへと飛んだ。
「けっ、突然呼んだと思ったこれかよ。んな、つまんねえことでチーム全員収拾しなくたっていいだろうにっ。」
メールで送りゃいいだろうがっと、ナパームマンのそんな愚痴めいた台詞にがはじめの合図だったように、周りも口を開く。
「まあまあ、イイじゃないか。何時もこの時間に集まってミーティグするんだから。」
「バーロー。時は金なりって言うだろうがっ。」
そんな愚痴にジャイロマンが返すが、彼の中で無駄な時間と決定されてしまっているようで、お世辞にも良いとは言えない目をつまらなそうに細くする。
一歩後ろで、鉄の規律を重んじるサーチマンは言葉こそ荒いものの、時間を無駄にしたくないという点には、心の中でなにげに肯定する。
「さてと。俺はお嬢様のとこにさっさと帰るか。」
棚ぼただなと、そう付け加えるように呟くと、マグネットマンも、ブルースと同様足早に自分のPETへと、プラグアウトしようとする。
「なんか嬉しそうね、何?」
メディは、楽しげに、少し意地悪そうに笑みを浮かべて聴く。
マグネットマンは、少し困ったような照れくさいような、ゴツイ彼には実にギャップのある、からかう言い方なら可愛い笑みを浮かべ。
「あー、なんだ…。此処のトコ、ミッションばっかりで潰した約束があってな(主にショッピング、約束と言うより我が儘)。ま、その穴埋めに使わせて貰おうかなぁってな。」
さばさばとした、言い方の彼には珍しく、語尾を濁す。
明らかにいうのは照れくさい、っと言わんばかりの、奥手な男の特有な反応だ。
周りのナビ達が、惚れた弱みだなと、瞬時に思考する。
しかし、例外もいる。手早く展開していた、恐らく今回のミーティングに使おうと思っていたのだろうデータを閉じながら、ロックマンは。
「へえ、マグネットマンは本当にオペレーター思いなんだね。」
別に、からかいのような様子は全く見られない。
本当に言葉通りの気持ちでそう言っているのだ、端から見れば、面白いぐらい丸分かりなのだが如何せん、この青いナビは、鈍い。運動神経が、と言うわけではない、逆によくもまあこんな華奢な体でと思うほど鋭い反応を見せる。
しかし、これはこれ、それはそれで。
感覚というのは一部が特化すると他が鈍くなってしまうのでは?と、思わず、疑ってしまう良い例が此処にいる。
「まあ…な。」
照れくさそうな表情を浮かべたまま、彼は、自分のPETへと帰った。
「ところでよぉ、お前達はどうすんだ?帰ってオペレーターと洒落込むか?ネットシティにでもいって暇を潰すか?」
そんなナパームマンの台詞に、一同は一瞬考える。
今日は、リベートのミッションは入っておらず、はっきり言えば事務的な仕事の予定だったのだ、その為、オペレートをされる必要はなく、しかも、今日は平日、各自オペレーターとは今は全くの別行動をとる予定だったのだ、で、予想外の急遽メンテナンス。
ぽっかり、一日開いてしまった。
「まあ、オレァ、燃次の仕事何時も通り手伝うがなぁ。」
「私は、ライカ様の所に戻る。ライカ様の激務の中、わざわざ私が任務に参加できるようにやり繰りなさっている。暇ができたからと言って休むなど言語道断だ。」
「ん〜、俺は…?チャーリーは今日は何もフライトの予約は入っていないんだよなぁ。あ、でも、次のフライトのクライアントに料金の算段、フライトメニューの打ち合わせが…、それに、公共料金の振り込みがまだだったなぁ。」
どうやら、差はあれ公私とも彼らは彼らで忙しいらしい。
二言三言別れの挨拶を交わすと彼らは、プラグアウトしていった。
そして、ミーティングルームに残される。
「う〜ん…、今日は熱斗君一日中テストだから。PETに戻っても、ね…。」
テストの時は、カンニング防止という名目でPETは教室にすら持ち込めない形式となっている。
ので、今日はほぼ丸一日、例えPETに戻ったとしても、一人で暇をもてあますだけだ。
どうしようかと、思わず癖で顎に手を当てようと無意識に上げた腕を、急に引っ張られた。
「わぁあっ!」
「ロックマン暇なのっ?」
不意なことで、ロックマンは少々情けない声を上げる羽目となったが、その腕を引っ張った犯人はメディだった。
「ぁ、うん。一応…そうだけど…。」
「だったら、私と今日一日付き合ってくれない?ジャスミンね、きょうチョイナから友達が来ててね、久しぶりに再会でね、邪魔するのも野暮でしょ?私今日一日暇になってどうしようかと思ったのよ。ね?どう?」
一度に言われて一瞬整理できなかったが、なるほど、自分と同じく一日暇をもてあます羽目になったとうことを、ロックマンは理解する。
別に、困ることはない、時間を確認すると、午後の授業が始まってしまっていて、ニ、三時間ぐらいは大丈夫だった。
「うん、いいよ。」
優しげな笑顔とともに返された返事に、メディの浮かべていた笑顔が更に深くなる。
「じゃあ、何処へ行きましょうか?」
「そう…だね…。」
ロックマンは少々頭を捻る、自分一人だったら好き勝手に巡れるが、メディと一緒になると話は別だ。
一応、同じナビとはいえ、一応『性別』という根幹的設定が違う(生物のように本当に雌雄が在るわけではないが、、、)。
それにあわせるような形で、思考プログラムも根幹的に違うのだ。
ロックマンは、女性と共に行けて楽しめる場所を、考えてみるが、、、。
「だったら、パストビジョンなんてどう?」
メディのその自然とも言える一言に、一瞬そうだねと、返しそうになったが、思考プログラムがその言葉の意味を認識すると、はっと、我に返る。
「だっ…駄目だよ!無許可でそんな事しちゃっ…」
真面目な気質の彼は、当然反対する。
第一、パストビジョン自体、トップクラスの機密事項に近いのだ。
「へーき、へーき。だってこの前マグネットマンとか、やってたもん。」
えっと、思わず声を上げる。
それは知らなかった、というか、何故マグネットマンがパストビジョンを、何故メディがそのようなことを知っているのだろうと、いう次々と湧いてくる疑問を整理し、質問する前に、メディがその混乱した思考を呼んだかの葉に返してくれた。
「ん〜?この前なんかこそこそしてるから何かなぁ?って、思ってみたら、パストビジョンを弄ってるんですもの驚いたわ。まあ、基本的に十一年前に秋原町を体験できるみたいなものなんだけど、ちょっと設定を弄れば他の場所、時間のパストビジョンも体験できるらしくてね、オペレーターのステラが、見たい過去があるって言ったらしくて、それでパストビジョンを勝手に弄くってたらしいの。私は別にブルースに言いつけるつもりなんて無かったんだけど、弄くり方を教えてあげるから黙ってくれって、私が何か言う前に全部言ってくれて、それでね。ちょっとそれを、試してみたいなぁって、思って。」
一気に言われて、また思考が混乱したがなるほどと、理解する。
恐らく、メディは言葉通りそれを試してみたくて溜まらないのだろう。しかし、真面目な彼にはどうも、抵抗があるらしく、首を縦に振れない。
逆に、どう止めよいかと考え込む。
そんなことをしようものなら、チームリーダーである、ブルースの大目玉は確実だ。
ぶるりと、彼の静かなる怒りを思い出して、思わず、身を震わす。
「気にしない気にしない!!」
薄いオレンジ色のバイザーを通して、お茶目な感じにウィンクを決めるメディ。
それに私達は、このチームのメンバーだから、何のセキュリティにも引っかからないから。とも、付け足す(一種の職権乱用)。
此処まで押されると、生真面目気質な彼でも押されて気持ちがぐらついてくる。
少しぐらいなら、、、っと。
「じゃあ…少しだけ…。」
躊躇いがちな声音だったが、顔は嫌がっていなかった。
らららっら〜ららら〜、ららっら〜ららら〜、らららっら〜ら〜ら〜、、、。
そんなリズムだけの歌を奏でながらメディがパストビジョンのシステムを弄るのをじっとロックマンは見ていた。
正直、彼は、楽しみなのだ。
少し、規則を破るという背徳感を感じながら、これから体験するだろうことは、とても魅力的なモノに想えてくるのだ。
後は、メディの操作が終わるのを待つだけだ(タイピングの速度はかなり速い、、、)。
「これで、、どうだっ!」
最後の締めとばかりに、ぽんっと、キーを押す。
一瞬の間をおいて、パストビジョンの入り口が展開される。
「やったぁ!成功ー!」
きゃっきゃっと、嬉しそうに手を叩くメディ。
見ていると、こっちまで嬉しくなってくる。そんな様子で、ロックマンは思わず、笑みを零す。
そして、同時にわくわくとした気持ちもあふれてくる。
「それじゃあ、いこうか。」
以外にも、手を取って進めたのはロックマンの方だった。
明るい笑みと共に優しげに手を引かれ、少々驚いたが、メディはすぐさまその手をやんわりと握り返した。
天然だ、、こりゃ、、、。
心の中で、そうメディは呟く(因みに、彼を表す場合だいたいの者はそう言いあらわすが)。
すっと、その歪みにも似たパストビジョンへと飛び込んだ。
ぐんっと、違和感を感じるのは一瞬。
その一瞬後、奇妙な感触の地面へと落ちる(恐らく、初めて弄くったので慣れていなかったのだろう、着地の設定がずれていたようだ、、、)。
「たっとっ…!」
「ぎゃぁぅっ!」
前者、ロックマン。後者、メディ。
この差は、着地の仕様が確実に物を言った。
「いったたたたぁ…。」
「大丈夫?」
「う、うん。」
奇妙な、そんな地面に手をつき、手を借り立ち上がる。
因みに、彼女が感じる奇妙な感触というのは、草地のことだ。
草地が奇妙な感触というと理解に苦しむかも知れないが、電脳世界と、現実世界の物質は根本的に感触が違う。
確かに『草』という属性は、電脳空間にもあるがそれはあくまで、そう見える、だけに近い。
もし現実世界の住人が、電脳空間へ行って、電脳空間内の存在する『草』を触れば、造花の感触しか感じない。
逆に言えば、電脳空間の住人からすればこちらの『草』に違和感を感じるのと同じなのだ。
現実空間のある一瞬の時間を、そっくりそのままデータ化し、ある意味過去の現実世界を電脳空間持ってくる、パストビジョンでしか味わうことができない感触といえよう。
「変な…感じ…」
「慣れたらそんなにはないよ。」
いくらか、パストビジョン慣れ(?)をしているロックマン、勿論最初は現実世界と電脳世界との感覚の違いには戸惑ったが、此ばかりは、慣れ、なのだ。
インターネットが普及し始めた十数年前には、全く考えもしなかったシステムではないだろうか?
電脳という、限られた世界に彼らが、その限られた世界の中で、現実を味わうというパストビジョンという存在は。
「ふぅん…此がジャスミンたちが居る世界…。」
インターネットシティの作られた青い空と全く違う、眩しげな青い空を見上げ思わず目を細める。
空が眩しい、そんな現実では当たり前な事にも驚いていた。
「どんな気分?メディ?」
「…不思議…としかいいようないわ…。」
似ているようで、違う世界。
それがこんなにも分からせられる。
薄い一枚のウィンドウ越しと思われるのに、こんなにも、こんなにも、遠いのかと。
PET越しでしか、見たことがない世界は、あんなにも近いと思えたのに。
「…遠いわねぇ…」
くすりと笑う。
ロックマンも、その一語であったけれどその呟きにはよく共感できた。
「さぁって…せっかく、来たんだから遊んでみましょう!」
今度は、メディがロックマンの手を引くとたっと駆けだしていった。
後は、言葉通り遊んだ。
パストビジョン内とはいえ、一応この世界の住人(?)と会話にしろ、見つかると少々厄介だ。
記録されてしまえば、ブルースに見つかること間違えなし。
なので、パストビジョン内にある物ならいいが、『動物』や『人』という、意思のあるものに出会うことに細心の注意を払いつつ(この世界ではプログラムくんの役割を果たしてしまう)、遊ぶのにちょうどいい品を探しだす。
「い…いいのかなぁ…」
「ちょっと黙って借りるだけよ、ちゃんと返すわ。」
それって泥棒の言い訳みたい、、、その言葉は心の内にとどめておくのが優しさ。
そして、道ばたにいかにも、今し方まで遊んでいたが置き忘れていった感じの、数年前に流行っていた少年向けのアニメキャラクターが大きくプリントされているボール見つける。
だむだむだむと、空気はしっかり入ってあってよく跳ねる。
「此を借りましょう!後で返せば…いや、忘れていったみたいだから大丈夫かしら?」
「………」
それって、やっぱり泥棒、、、いや、この場合、その意思はないメディだから、、、借りパクっぽいよ、、、。
それを全ての見込み無言で頷くのも、言葉が見つからない彼なりに優しさなのは言うまでもない。
「じゃ、いっくわよぉ!」
「うんって、わぁ!わ、わわぁ〜!!」
ものすっごく、微妙なコントロールで投げられるボールは、かなりの瞬発力を持ち合わせている彼でも受け止めることは難しい(彼は、そのボールをばっちりのコントロールで投げ返す)。
はっきり言ってしまえば、ロックマンほどの瞬発力があるからこそ、何とか、ラリーが続いているのだ。此が通常のナビならば、ラリーどころか受け止めることができるかどうか怪しい。
しかし、無茶苦茶なボール遊びとはいえ、続くと結構白熱してくる。
最初は、キャッチボールもどきだったが、打ったり、蹴ったり、も自然とOKとなり、なんだか、キャッチボールとバレービールとサッカーを混ぜたようなハチャメチャなボール遊びへと化した。
「く〜ら〜え〜!!」
「ていっ!」
「こ〜しゃ〜く〜な〜!」
「わっ!たっ!」
完全に熱中していた。
二人は気付いてはいなかったが、此処最近、リベートミッション故、遊ぶということをしていなかったのだ。
知らず知らずのうちに、ストレスが溜まっていたらしい。
それは、当然かもしれない、遊びたいという気持ちを抑えていたその反動なのだろう。
彼らの設定精神年齢、性格は、遊びたい盛りの子供と大して変わらないのだから。
そして、気付くとかなりのヒットポイントを消費し、どちらとなく、草地の地面に沈んでいった。
「はぁ〜、楽しかったぁあ!!」
「…っはぁ…そ…ふぅ…そぅ…だ…ぁはぁ…ねぇ…」
「ロックマン?疲れたの?」
「…ふぅ…だぁ…はぁ…ねぇ…」
体を動かした爽やかな疲労感を感じているメディに、対し、はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇと、本気で疲れましたと全身で訴えているロックマン。
この差は、ボールに振り回されないか、振り回されるかによる(メディの微妙のコントロールに付いていくのにはかなりのヒットポイントを使ったらしい、ある意味、下手な訓練より凄いものかもしれない)。
「もう、だらしないんだからぁ!」
「…………。」
今度、メディとボール遊びをするときのためにヒットポイントを上げといた方がいいかも知れない。
ロックマンは、今度の定期メンテナンスの時、ヒットポイントの調節をしてもらうかと考えた。
「あら、もうこんな時間?」
ふっと、気付いたようにメディが時間を確認するとロックマンも、時間を見て。
「あ、そろそろ。ジャスミン、友達が帰る時間だ。」
「あ、そろそろ。熱斗君、学校が終わる時間だ。」
見事な、シンクロした、二人の一言。
くすりと、思わず二人で笑い合う。
「…ちょっと、名残惜しいけど帰りましょうか。」
「…うん。」
メディと、ロックマンは、ちゃんとボールを元の場所へ返し、パストビジョンの入り口へと帰ることにした。
けれど、ロックマンは先ほどの疲労が大きかったらしい、疲れ気味なのが丸分かりだった。
「大丈夫?」
「まあね。」
疲れ気味で、何を言ってるのやらとメディは、態とらしくため息をついた。
「帰る前にちょっと休んでいきましょ!」
「え?」
「ほら!ほらほらほら!!」
「ぇぇえ?え?はぃ?」
半ば強引なメディにいわれるがままに、引っ張られるが、休んでいく時間ぐらいはあるなと、のんきに思考する余裕はあった、、、。
ふと、メディの開けっ放しの小さな植物園が目に入った、植物園というのには少し小さいぐらいのもので、市民の憩いの場と言ったようなものなのだと、納得する。
その証拠に料金など払うような所もなく、簡素なドームなのだから。更に、嬉しいことに人は一人も見受けられない。
「彼処で良いんじゃないかな?」
「そうね。」
誰か居ないか確認しながら、その小さな植物園へとはいる。
少しはいると、憩いの場としての丸く柔らかな芝生のひいてある小さな広場があった。
どちらともなく、顔を見合わせると、目と目の了解というか木下に二人で座る。
植物をみると、此処の植物園は熱帯系の植物を扱っているようだった。
その証拠に、二人の座った木は椰子の木。観賞用のためか、品種改良されているのか、そう高くない種類の木で、実がもう少しで届きそうなぐらいだった。
「椰子の実だ。」
「ほんと。」
べつに、初めて椰子の実を見るわけではない、が、パストビジョンだと、こうも違うのかと感心したのだ。
ネット内の立体映像の、何処か無機質さを匂わせる感じがあまり無いのだ。
何となく、手を伸ばす。
「なんだか、とれそうだね。」
「そうね。」
ロックマンは、立ち上がって手を伸ばすがぎりぎり高さが足らない。
軽くジャンプをするが、やはり届かない。
「あはは…。」
思わず、苦笑いを零す。
いつもの、彼のジャンプ力なら届くだろうに、、、。
メディは、僅かに息の乱れる彼に、先ほどの疲労が関係していることにすぐ気が付く。
諦めてロックマンが座ろうとすると、ぬっとメディが前に来て、何?と訊く前にひょいっと前で座り込んだ。
「乗って。」
「え、ええ?い、良いの?」
「いいの。私は、大丈夫だから。」
一瞬ためらったが、、、。
「わかったよ、でも、無理しないでね。」
スタンバイOKと、ばかりにしゃがんでいる彼女の肩に足を絡ませる。できるだけ、負担にならないように片足からゆっくりと。そっと、ゆっくりと、体重をかける。
彼なりに、負担をかけないつもりの体勢のつもり、、、だ。
「ど…どうぅ…?」
「後、少し…だけど…。」
ぐぐぐっと、必死に一人分の体重を持ち上げていた膝からは、そんな鈍い音が聞こえたような気がした。
大丈夫かと、思ったが、踏ん張りはしっかりしているので倒れることは今のところ大丈夫そうだ。
さっきの、彼のジャンプよりずっと、楽に届きそうだ。
楽だ、、、と、一瞬のんびり考えたが、がくりと、片膝がバランスを崩す。
やはり、重いのだ。
降ろしてとは、せっかく頑張ってくれている彼女に悪い気がして、言葉を変えた。
「が、がんばって!メディ!!」
「………っ、…う…うん…!!」
一瞬、返す言葉が後れたのは、必死に膝のバランスに全神経を集中していたらからではないだろう。
その声援が、決め手だったように、最後の踏ん張りが出たのだろうに、ぐんっと、彼を上へ上げた。
もう少しだった、手が、低い椰子の実に届くか、、、と思ったその時、、、。
がくっと、膝が崩れ、バランスが大きく崩れ、とっとと、と。二、三歩ぐらつき。
「ごめん…も、もう…もう駄目…。」
「ぁわ!?」
もう、立て直すことが出来ないほどバランスが崩れてしまい。
「…っつ!」
バランスが一気に、後方へ落ち、その反動で、不幸な偶然とも言えよう、思わず彼を投げてしまった。
彼女はその勢いで座り込んだだけですんだが、、、。がんっと、投げられた形になった彼は、肩車という複雑な体勢だった成果、受け身をとれず、強か頭を打ち付けた。
ぶつけた箇所から、痺れに似た衝撃が頭全体に走り、くらりと、一瞬意識がブラックアウトする。が、彼は、気を入れ直すように頭を振る。
通常のナビだったらこのまま、痛みに負けて、箇所を抱え込むことになるが。仮にも、彼は戦いに身を置くものだ。
この程度の痛みは彼には慣れたもの。
だが、痛いことには変わりなく、痛い事は痛い。
「…〜っつ!!」
「あ!…ごめんロックマン!!だ、大丈夫!?」
「あはは…、へーきへーき。」
「ごめんなさい。思わず投げちゃって…。どっか…怪我してない?」
こわごわと、メディの手を伸ばされる。
壊れ物に触るような手つきで頭を撫でられる、少し気恥ずかしいが、振り払うのは大変失礼な気がして、黙ってその白い手に撫でられた。
その手つきは、慣れたもので撫でるような触診を行う。
ロックマンは、此までの戦いで、かなりの回数の損傷を負ってきた。そのたびに、メディと同じメディカル系のナビに、このように触診をされたことも少なくはない。
だが、今メディが行ってる此より、メディほど、優しいものはなかった。
「よかった。何処もデータに損傷はないわね。」
ほうっと、胸をなで下ろす彼女。
心配してくれたのだと、彼は、恥ずかしい反面照れくさい気持ちでいっぱいになった。
「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫だったでしょ?」
「うん。でも本当にゴメンね。」
「そんなに、気にしないでよ。にしても、とれなかったね、あれ。メディにせっかく肩車して貰ったのに。」
メディは、心配げな余韻を残したまま笑っていたが、ロックマンのそんな冗談交じりの言葉と、弾けんばかりの笑顔につられて、そんな余韻も溶けるように消えた。
彼の笑顔は、見たものをどうしてこう、移るのだろうか。
メディは、此は一つの才能ではないかと本気で考える。
医療に携わるものにとって、笑顔は必須である。
それは、相手を安心させるため。
ひょっとしたら彼は、バトルの他に、医療関係の仕事も案外向いているかも知れない。
ふと、メディは、今度、メディカルナビの講習会があったことを思い出した。
「ロックマン、今度の金曜のお昼開いてる?」
「…え?…うん、暇だけど?どうして?」
「…ちょっとね。」
誘ってみようと本気で思った。
?と、見事にクエスチョンマークが浮かんでいる彼の肩を叩き。
「椰子の実もとれなかったし、休んだし、帰りましょうか?」
「あ、うん。」
ロックマンより少し速く立ち上がり、ほらっと、いつものように振り返り手を引こうとしたより速く、今度がロックマンがメディをあっと言う間に、本当に不意を付いて、器用に、肩に載せたのだ。
「ろ!ロックマン〜?突然なに?!降ろして〜!」
思わず、彼女らしくない照れはっきりと混じった甲高い声を上げてしまった。
くすっと、してやったりとばかりに、ロックマンはそんな悪戯めいた笑顔を浮かべ。
「降ろさないよ。」
ロックマンは、見れなかったが、今のメディは彼が見たことがないぐらい、照れが全面に出、面白いぐらいその顔は紅く染まっていた。
すぐに、音を上げるとに違いないと、メディは少し紅い顔のまま彼に肩車されることにした。
しかし、予想に反してロックマンはスピードは遅いが、特に問題ないようにメディを肩車したままで出口へと向かっていった。
いくら華奢に見えても、一応は男性型ナビだったということだろう。
彼の小さな体躯で忘れがちだったが、数々の猛者をうち破ってきたほどの実力者なのだから。
ゆったりと、ロックマンに身をゆだね、自分の足で歩くのとは違うそれに、何処かしら快い何かを感じていた。
楽ね、、、。
照れが、心地よさでいくらか緩和されそ思わず、そんな思考をする。
しかし、その思考が彼女を我に返させた。それに、出口が見えたせいもあるだろう。
「〜っ!!もういいでしょう。おーろーしーてぇええ!!!」
「わ!わわわぁー!!」
じたばたっと、脈絡もなく突然驚きだしたので、ロックマンは予想できず、先程の投げられより、更に酷い目にあった。
今度は、べちゃっと、実に可哀想な音を立て豪快にメディがロックマンを潰してしまったのだ。
「きゃぁ!!ご、ごめんなさい!!」
「と、突然暴れないで欲しかったなぁ…。」
参ったと言わんばかりに、メディの手を借りて立ち上がる。
「怪我ない?」
「うん、大丈夫だよ。」
にこっと、とても親しみやすい、笑顔を浮かべる。
「メディこそ大丈夫だった?」
「あ、うん…、あの…その…ロックマン…。」
「ん?何?」
「えっと…あっと…、その…重く…。」
「…?」
「重く…無かった…?私…?」
ロックマンはその、もごもごとまごついた言葉が放たれた意味を理解できずに、思いっきり不思議そうな顔をする。
乙女心とは複雑怪奇な物なのだ。
普通の男性にでも、理解しかねるそれが、思いっきり鈍い彼に理解できるはずがない。
ので、彼はその言葉通りに受け止め。
「…?ううん、全然。もうちょっと、データがあってもいいぐらいだと思うけど?」
素直な意見として返した。
メディは、その顔をなんとも言えない表情へと変えた。
少し、彼は乙女心を欠片でもいいから理解した方がいい。
まあ、乙女心は下手な数式など足元に及ばないほど、複雑なのだ。
しかも、個々によって違うときたのであるから、応用が利かない可能性がとても高い。
全く持って、厄介な代物ではあるが。
「そ…そう。」
別に此といった答えがあったわけではなかったが、実に微妙な返答に、不思議な気持ちになった。
まあ、、、ここが、ロックマンらしいというか。仕方ないわね。此ばかりは、、、。
心の中で、ため息と共にそう呟いたことは彼には伝わることはないだろう。
けれど、相変わらずの軟らかい表情を浮かべている彼を見ると、どうでもそれが良くなった。
此が、彼の魅力と言うところだろう。
ふうと、メディは浅くまたため息をつくと、彼の腕を絡め取り。
「じゃあ、帰りましょう。ジャスミンたち待っているわよ。」
「うん。」
二人は、パストビジョンから出ていく、ぐんっと、入るときと同じように違和感を感じると、そこはもう、元の場所だった。
「…やっぱり…変な感じ…」
「…だよねぇ…」
現実の感覚を味わっていた物だから、突然、電脳の感覚に戻されて此は此で違和感を隠せない。
人間で例えを上げれば、長時間水に浸かって、上がったときの体の違和感といったところだろう。
メディは、手早くパストビジョンの履歴を直す(マグネットマンは、どうやら、いろはを全て教えたらしい)。
そして、今度は開くときとは逆に名残惜しそうに、最後のキーを叩く。
「此で終わりっと。」
途端に体に響くような機動音が消え、聞き慣れた電脳を走るデータの静かな音だけ、この部屋の音を支配する。
そして、後ろで黙ってみていたロックマンに踵を返す。
「じゃあね。また、明日。」
「うん。また、明日だね、メディ。」
ぱんっと、ハイタッチと交わす。
「今度は、パストビジョンじゃなくて他のところで、遊びましょ。」
「うん、楽しみにしてるね。」
そして、二人同時に、消えるように自らのPETへと帰った。
明日のリベートミッションは、大変だろう、などと思いつつ。